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「もちろん聞いてますよー。おにーさんの名前は?」
「……有史」
「ユウシさん」
「呼びにくかったら、おにーさんのままでもいいけど」
「うーん、でもすてきな名前だから、名前で呼びたいです。よろしくねユウシさん。あのね、明日のことですけど。まず川にいきたいなーと。綺麗な川に」
綺麗な川。どうやら初日から遠出をしなければいけないようだ。引き受けたのは自分とはいえ、なんて面倒な。あとで車のガソリンを入れておかなければ。
「待ち合わせは、この公園でいいと思います。わたしの自転車は隅に置いておけばいいし」
「ああ」
そういえば、トウカはどこの施設にいるのだろう。たしかこの近くには施設はなかったはずだ。本人に聞いてみると、隣町だという。それなら迎えにいこうかと提案すると、彼女は慌てて首を横に振った。
「このことは、ユウシさんとわたしの秘密にしたいんです。ふたりだけの秘密ってやつです」
真剣に、しかし目を輝かせながら言うトウカに、そういえばこの年頃は秘密という特別な響きに憧れるものなのだと再認識する。自分がそうだったように。
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