0人が本棚に入れています
本棚に追加
二章 後悔ばかりのおとな
昨日、見知らぬ少女に命を預けた。
もし知人にそんなことを言ったら、きっと、頭でも打ったのではないかと言われるだろう。唯一、元同僚だけは「そりゃいいや」と言う様子が目に浮かぶ。「自分の命を誰かに左右されるなんて、滅多に体験できるものじゃないぜ」と、新しいおもちゃを見つけたように喜ぶ顔が容易に想像できた。そして彼は、きっと最後にこう付け足すだろう。「まさか夢でした、だなんて言うなよ?」
その言葉が自分にとって都合がいいのか悪いのかは、いまは判断することができないのだけれど。
自分でも、一晩経ってみるとあれはただの白昼夢だったのではないかと思えてくる。しかし白昼夢であったなら、真澄とどこか共通点のあるだけの見知らぬ少女ではなく、真澄本人が登場してくれてもいいのではないかと思う。自分はこんなにも真澄を必要としているのだから。
そして、いま自分が座っている公園のベンチに近づいてくる少女の姿が、昨日の出来事は現実であったのだと証明していた。有史はタバコを消して残り少ない缶コーヒーを飲み干すと、すぐそばのごみ箱へ空き缶を放り込む。青空に届くような、澄んだ音が響いた。
最初のコメントを投稿しよう!