序章 遠い約束と手紙

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 見慣れた商店街を駆け抜けて、町内のイベントに使われる広場を通り過ぎ、町のはずれを目指す。道端で丸くなっていた野良のぶち猫が、「またお前か」とでも言いたげに鳴いた。そんなに迷惑そうな顔をするなよと、有史は走りながら思った。このぶち猫が昼寝しているところをよく邪魔したものだったが、たまに餌をあげてやっていたじゃないか。これからは自分で餌を探すんだぞと言いたかったが、そう思ったころには曲がり角で見えなくなっていたものだから、諦めて目的地を目指すことだけを考えるようにした。いつのまにか民家はまばらになって、高台へとつづく坂にさしかかっていた。  その場所をはじめて見つけたのは、本当に偶然だった。いつものようにいたずらをして、いつものように近所の人から逃げている途中。このまま行くと小さな時計塔があって、でももしそこまで追いかけてきたら逃げ場がなくなってしまうから、途中で横の雑木林に入ってみた。目の前に隠れるのによさそうな茂みがあって、その茂みの裏で近所の人が諦めるのを待とうとしたときだった。  木々の隙間からこぼれていた、燃えるようなオレンジ。それに誘われるように進んだ先で。低く身を沈めた太陽が真っ赤に燃えている様子が目に飛び込んで、夕日がこんなにも綺麗なものなのだと、有史はそのとき初めて知ったのだった。
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