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あれから、何度この道を通っただろうか。夏の夕方は蒸し暑くて、すこし走っただけで服が身体にひっついてしまう。この茂みの先にすこし開けた場所があって、いつしかそこに真澄の背中が見えることが当たり前となっていた。
秘密基地を教えた当初は、有史のほうが先に来ていた。しかし、あるとき真澄のほうが早く来ていたことがあって、そのとき有史はとても嬉しく思ったものだった。彼女にとっても、この場所が特別なものになったのだと。
それ以来、はやる気持ちを抑えて、わざとゆっくり来るようにした。待っている真澄の背中を見て、声をかけて、振り向いた彼女の笑顔に居場所を感じたくて。
この場所に来るのは、最後になるかもしれない。そこに彼女の背中が見えないのは正直とても寂しい、そう思いながら茂みを抜ける。染まり始めた西日に目を細め、しかしその直後、有史は驚きに目を見開いた。空間を照らす太陽の光に、見慣れた影があったからだ。
真澄は、両膝をかかえて座っていた。有史がここに来ようと決めたのはつい先ほどで、いまの状況で連絡などできるはずもない。それなのに待ち合わせたわけでもなく、彼女はただ静かにそこに座っていた。
もしかしたら、自分は期待をしていたのかもしれない。ここに来れば彼女に会えるかもしれないと。
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