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左隣から聞こえる嗚咽には気付かないふりをした。きっと彼女も、自分のくしゃくしゃになった顔に気付かないふりをしてくれているだろうから。
「楽しみに待ってるね。約束だよ」
「うん、約束だ」
「そのときは一緒に死ぬまで、一緒に生きようね」
「もちろん。絶対に忘れない」
視界の隅に差し出された小指に、自分の小指を絡めた。互いに顔を見ないまま、弱々しく指切りをする。
それが終わると彼女の指がするりと離れて、左隣の体温も離れて、彼女の気配が遠ざかっていく。
今日ここで自分たちが会っていたことと幼い約束は、誰にも教えてはいけない秘密だ。真澄はきっと、どこかで涙を落ち着けてから家に帰るのだろう。
有史の涙は、すぐには止まりそうになかった。それでも辺りが暗くなるころには何もなかったかのように家へと帰った。
そして町の住人が寝静まった深夜、有史は家族と共にこっそりとこの地を去ったのだった。
月日は流れて、遠く離れた街で有史は二十三歳となった。
あれからいたずらっ子は卒業し、あの約束を守るためだけに、ひたすら真面目に生きてきたつもりだ。親元を離れてちっぽけなワンルームを借り、自力で生きていく力がようやく身についてきたところだった。
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