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陽炎に、焦がれる。【その3】
このスーパー銭湯は、オプションで、「エステ風呂」も楽しめる。と、いう前情報はあらかじめ得ていたから、迷わず受付で、
「つけます」
との返事を受付で私は、即答していた。
エステお風呂は、八箇所(かしょ)あって、それぞれ特色はまったく異なるものだった。
中でも、「ミント風呂」は、画期的だった。入り口の看板を見る。
「ミントの蒸気で、体を温めます。
またテレビでもおなじみ。科学のかたつむり先生の化学実験でも実証された『ミント噴射』を、今日は特別に楽しめます。ぜひこの機会にお気軽にどうぞ。」
行列ができていた。迷わず列に並ぶ。
しばらく並んでいたら、後ろから「すみません」と声を掛けられた。
男だった―エステ風呂フロア内は男女混浴で、専用の衣類を着ている―。
私は仕方なく振り向くと、男は、
「あのー。今、これって、何で並んでるんです?」
と私に聞いた。
(湯船の入り口に、詳細の書かれた看板があるでしょうに。)
あえて私に聞くこの男を、私はいぶかる。
(・・・・・・ナンパか。)
私は、ふとしたことで、よく男性から声を掛けられる。
この場合ももちろんその部類に入る。
それにしても、スーパー銭湯でナンパとは。
場所をわきまえなさい、若人(わこうど)よ!
年の頃は、二十代前半。いかにもチャライ雰囲気(ふんいき)が出ていた。
さらに……口臭が、にんにく臭かった。
焼肉でも食べたのだろうか。
女性に対してのデリカシーがないやつ。
私はそのことにも無性に腹が立った。
「ミント風呂です。このお風呂人気みたいだから」
一息で言って、男の反応を待たずに私は踵(きびす)を戻した。
一時間ほど並んだかな。
待ちに待ったミント風呂は、室内にミントの匂いが充満していた。
そしてお目当ての「ミント噴射」は、ミントの香りの熱い蒸気を火炎放射器の要領で、全身に浴びる。
私は、はまってしまった。
―勢いづいて、三回もアンコールをスタッフにしてしまったことは、
・・・・・・いうまでもない。
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