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 私はすぐにPreciousのデザイナーに連絡を入れた。 「もしもし」 「あの、本日商談のお約束をしていた坂口と申しますが……」 「ああ、坂口さん。連絡がないものですから、本日のお約束はなくなったものだと思っておりました」 「申し訳ございません! 今すぐそちらに伺いますので」 「いえ、結構ですよ。実は、他のメーカーからも熱心にコラボの話がきていましてね。ちょうどそちらと商談がまとまったところなんですよ。ですから、今回のお話はなかったことにしていただけますか」  人気ブランドは、他のメーカーからだって企画の持ち込みが多く、選べる立場にあるのはわかっていた。  しかし、もう最終段階に入ってしまっているうちの企画がこうもあっさり打ち切られようとは、考えてもいなかった。 「そんな……すぐに伺いますので」 「ですから、結構です」 「今回、無断で遅れて仕舞った件については本当に申し訳……」  私が話している途中でブツリと電話を切られてしまった。  物腰の柔らかい対応ではあったが、先方が相当憤慨していることは明らかだった。 「おい、なんだって?」 「……他のメーカーとコラボすることになったって……」 「はあ? じゃあ、どうすんだよ! この企画がなくなったら最大の見せ場を失うんだぞ!」 「申し訳ありません!」 「しっかりしてくれよ……」 「私、謝りに行ってきます!」 「当たり前だろ!」  苦虫を潰したような顔をしている井上さんに申し訳なく思いながら、私はPreciousへ向かった。  車へ乗り込み、走行していると「ねぇ、どうするの?」と助手席から声が聞こえた。 「え?」 「だから、このことなかったことにするの?」 「わからない……」  ユキは、平然とそう言うけれど、初めてユキに力を借りた時、私のせいで祖母が亡くなった。  今回の企画がなくなったら、会社に大きな損害を与えることになるだろうし、周りからの信用も失う。  それを考えたら、その代償は決して小さなものでないことはわかっている。  だからこそ、安易にこの出来事をなかったことになんて言えずにいたのだ。
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