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「死ぬときは一緒だよ」と彼女は言った。それはごめんだった。彼女が死んだとき僕が生きていたとして、首をちょん、と切って後追いでもしないといけないのか。しかし彼女が死んだ場合、彼女の死体は家の中で朽ちてゆくことになる。外に投げやる訳にもいかない。そもそも居候のくせして、「共に死ね」などという契約を持ちかけてくるような奴を住まわせている僕も僕で大層な“お人好し”だと思って、頭を掻く。 彼女はある日、僕の家にやってきた。「やってきた」というのは、サンゴが美しい浅瀬の海のように穏やかな言い方であるが、正確に言えば「押し入ってきた」。『同居』というのは条例で禁止されていて、というのも物理的に困難だからなのだが、彼女は御構い無しに僕の狭小住宅に押し入ってきた。やっとの思いで手に入れたマイホームだったのに。 「家がないの」 そりゃ誰だってもともと家なんかない。食う寝るところに住むところ。すなわち近現代においてそれは家。家がなきゃ僕らはどうにも生きづらい。だから僕らは頑張って家を手に入れるのだ。そう頑張って。親がでかい家持ってるとかなら、親が出て行った後、それを拝借するなんてことはできるだろうが、そんなのは一握りの奴らだけで、大抵の奴らは“頑張り”の結果、家を手に入れる。僕も家を散々っぱら転々としたが、ようやくこの黄色い外装が洒落た家に越すことができたのだ。 家がないからと努力もせず、よその家に居候するというのはふざけた奴だ。しかし、彼女が家に、文字通り、押し入ってきたとき、僕は悪い気はしなかった。身体を縮め、入ってきた。小柄で美しい。頭からカツオノエボシの触手みたいに派手な毛が生えていて刺激的だったから、僕は一目惚れしてしまった。しかし、一目惚れというのは“見た目”ただその一点に関して惚れるということであり、僕はまだ彼女に対して心を開いたわけではなかった。それは後に正確な判断であったと確信することになる。性格はクソだった。
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