霧衣物語

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「なら、姫さんを連れて帰ったらいいんじゃねぇの? 安治に里をまかしてさ。計画に加担した奴が里長になれば、安心だろ」  あっさりと良案を口にした隼人に、全員の目が集まった。 「難しく考える必要なんて無いだろ。姫さんが残ってなきゃいけない理由があるんなら、別だけど」  今度は栄に視線が集中する。 「いいえ。私が留まる理由は少しもございません。安治なら、この里をうまくまとめてくれるものと存じます」  栄が手を着いて晴信を見る。その目に、共に国政に携わりたいという決意が漲っていた。 「俺も、そうしてもらえると助かる」  晴信が受け入れれば、栄は心底ほっとしたように頬をゆるめた。その背後で、義孝が少し浮かれた顔になる。 「皆」  きりりと眉をそびやかし、晴信は座にいる顔を見渡した。続く晴信の言葉を少しも漏らさず肝に刻もうと、誰もが意識の全てを晴信に向ける。 「俺は、見ての通りの未熟者。目が行き届かないところもあるし、考えが及ばない事態もある。父上の乱したこの国を、豊かで穏やかなものにするための難題が、山のように押し寄せてくるだろう。だが、今回の件で、俺はひとりでは無い事を強く感じた。多くの者に支えられてこそ、俺は国主となれる。だからどうか、この俺を末永く支えてもらいたい」  晴信は深く、頭を下げた。 「もちろんです」 「まかせとけ」     
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