霧衣物語

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「心得ました」 「いかようにも、お使いくださいませ」 「当然です」  たのもしい声が晴信を包む。晴信は「ありがとう」と口内でつぶやき、湯飲みを持ち上げた。 「固めの杯ならぬ、固めの湯飲みとなるが、かまわないか」  照れくさそうな晴信に応える為、皆が無言で湯飲みを持った。 「情けは味方、(あだ)は敵。人と人との繋がりを重んじる国に、していこう」  晴信の音頭で、皆が湯飲みを傾けた。  * * *  その後、さまざまな問題をくぐりぬけながら、霧衣は晴信の祖父が治めていた頃の穏やかさを取り戻した。晴信は身分を気にする事なく方々の里に顔を出し、民とたわむれ声を聞き、国政に活かした。瑠璃のみに頼っていた国の財政は、民が晴信を慕うようになり、野良作業に励んだ結果、農作物の収穫が豊富になった事もあって、それらを工夫した品々を輸出できるようになった。民が豊かに過ごせるようになれば、流通が生まれる。霧衣は、にぎやかな国となった。  晴信は有能な重臣らと、紀和から送られてきた孝明の博識とに支えられ、没した後も仁政を行った国主として、国内外で広く語られ慕われる事となる。
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