第1章

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 撮影を終えた四人はずぶ濡れのまま逃げ込むようにショッピングモールへ入った。 「ここで買ったものは部費から落とすようにするから、領収証は全部こちらに回してくれ」 「それって、下着もオーケーですよね。木内先輩、下着までビショ濡れなんですよ」  はにかんで言い出せなかった友美に代わって杉木が加藤に談判した。 「あぁ、もちろん構わない」 「バスタオル買ってきました」  花岡が水色とピンクのバスタオルを手に戻ってきた。 「ごくろうさん。さ、これで髪を拭いて」  友美は加藤から受け取ったバスタオルで髪を乾かしてから、杉木と二人で買い物に出掛けた。濡れた服を着替えるため取り敢えず適当に服を見繕うとトイレで着替えた。  四人は凍えた身体を温めようと、まだ人気の少ないフードコートで食事を取った。  友美と杉木はうどんのコーナーに並び、加藤と花岡は中華のコーナーに並んだ。 「やっぱり身体を温めるのは、激辛フードですよね!」  そう言いながら加藤と花岡が持ってきたのは担々麺と麻婆豆腐だった。 「麻婆豆腐はみんなで食べよう」  加藤がマーボー豆腐の皿と取り皿をテーブルの中央に置いた。  うどんをすすると、芯まで冷え切っていた身体の中から徐々に温まってくるのを実感した。みんなの顔にも次第に赤みが戻ってきていた。 「山椒が効いていて、本格的な激辛麻婆豆腐ですよ。木内先輩達も食べてみてください!」  花岡に勧められて友美は恐る恐る口にした。その途端、山椒のビリビリとした感覚が唇を襲った。 「私には辛すぎるみたい」 「あれっ、ちょっと山椒を入れすぎたかな?」  杉木も同様に、一口舐めただけで皿を置くとがぶがぶと水を飲んだ。 「あんまり辛いものばかり食べてると、本当にバカになりますよ」  よっぽど辛かったのか、花岡たちに向かって憎々しげに捨てゼリフを吐いた。 「それにしても、今日の撮影は素晴らしかったなぁ。最後は完全にアドリブですよね? 僕は遠くから見てただけですけど、ものすごく感動しました! 魂が揺さぶられました!」  花岡の言葉に加藤と友美の手が一瞬止まった。 「それで、というわけではありませんが、木内先輩」  花岡が友美の方に向き直った。 「? 何?」 「木内先輩は部長のことどう思いますか?」  加藤は思わず口にしていた麺を吹き出しそうになった。 「ど、どういう意味だ」
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