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友美が立ち上がると、スマホに着信が入った。スマホの液晶画面には父の名前が浮かんでいた。
「もしもし、パパ?」
「おう。友美、元気か?」
「どうしたの?」
「いや、何となく友美の声を聞きたくなって……親が娘の声を聞きたくなったら悪いのか?」
友美はスマホを耳に当てながら電子ケトルに水を注ぎ、スイッチを入れた。
「別に悪いとは言ってないけど……パパ、飲んでるの?」
「あぁ。出張で大阪に来てるんだ。飯食って、今ホテルに戻ってきたところだ。一人だと酒飲むくらいしか楽しみがなくてなぁ。友美は何してた?」
「明日入試だから、勉強していたとこだったんだけど」
「おぉ、そうだったか。すまんすまん、じゃあ手短に……友美は豚まん好きだったよな?」
「なによいきなり。うん好きよ」
「お土産に買って送るよ。麦君達の分もあるから、二十個くらいあれば間に合うかな?」
「そんなには要らないわよ」
「まあ、多くて困ることはないだろう。楽しみに待っていなさい」
「ところで、パパ」
父から麦という言葉を聞いて、友美はあることを思い出した。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
友美は麦の方をチラッと見てからリビングを出た。そして少しだけトーンを落として父に尋ねた。それは今まで友美が密かに思っていた疑問についてだった。
「パパと麦のお父さんは知り合いなんでしょ。麦を私の許婚に決めたってことは、以前から麦のことを知っていたってことよね? いつ、どこで知り合ったの?」
電話の向こうで、ハッハッハと笑い声がした。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことじゃないわ。私にとってはとっても大切なことよ」
「よしわかった。恐らく麦君も知らないだろうから、結納の時に二人に話してあげよう」
「パパはいつもそうやってもったいぶるんだから」
「その方が真実を知ったときの感動が何倍にもなるだろう」
「そうかしら」
電話を切ってリビングに戻ると、麦がカフェオレを作っているところだった。
「ごめんね、麦」
「ううん。お義父さんから?」
「うん。大阪土産に豚まん送るって」
「へぇ、豚まんか。あれっておいしいよね。僕好きなんだ」
「偶然ね」
「豚まんにはカラシが必須だよね」
「カラシ? ありえないわ。そのまま食べた方が絶対おいしいわよ」
「そうかなぁ。カラシを付けた方が絶対おいしいと思うんだけど」
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