第1章

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 友美が立ち上がると、スマホに着信が入った。スマホの液晶画面には父の名前が浮かんでいた。 「もしもし、パパ?」 「おう。友美、元気か?」 「どうしたの?」 「いや、何となく友美の声を聞きたくなって……親が娘の声を聞きたくなったら悪いのか?」  友美はスマホを耳に当てながら電子ケトルに水を注ぎ、スイッチを入れた。 「別に悪いとは言ってないけど……パパ、飲んでるの?」 「あぁ。出張で大阪に来てるんだ。飯食って、今ホテルに戻ってきたところだ。一人だと酒飲むくらいしか楽しみがなくてなぁ。友美は何してた?」 「明日入試だから、勉強していたとこだったんだけど」 「おぉ、そうだったか。すまんすまん、じゃあ手短に……友美は豚まん好きだったよな?」 「なによいきなり。うん好きよ」 「お土産に買って送るよ。麦君達の分もあるから、二十個くらいあれば間に合うかな?」 「そんなには要らないわよ」 「まあ、多くて困ることはないだろう。楽しみに待っていなさい」 「ところで、パパ」  父から麦という言葉を聞いて、友美はあることを思い出した。 「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」  友美は麦の方をチラッと見てからリビングを出た。そして少しだけトーンを落として父に尋ねた。それは今まで友美が密かに思っていた疑問についてだった。 「パパと麦のお父さんは知り合いなんでしょ。麦を私の許婚に決めたってことは、以前から麦のことを知っていたってことよね? いつ、どこで知り合ったの?」  電話の向こうで、ハッハッハと笑い声がした。 「なんだ、そんなことか」 「そんなことじゃないわ。私にとってはとっても大切なことよ」 「よしわかった。恐らく麦君も知らないだろうから、結納の時に二人に話してあげよう」 「パパはいつもそうやってもったいぶるんだから」 「その方が真実を知ったときの感動が何倍にもなるだろう」 「そうかしら」  電話を切ってリビングに戻ると、麦がカフェオレを作っているところだった。 「ごめんね、麦」 「ううん。お義父さんから?」 「うん。大阪土産に豚まん送るって」 「へぇ、豚まんか。あれっておいしいよね。僕好きなんだ」 「偶然ね」 「豚まんにはカラシが必須だよね」 「カラシ? ありえないわ。そのまま食べた方が絶対おいしいわよ」 「そうかなぁ。カラシを付けた方が絶対おいしいと思うんだけど」
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