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「今すぐ出てらっしゃい」
「え?」
「今すぐよ。正門の前で待ってるから、早く」
そう言って電話は切れた。友美はすぐに折り返し美有希に電話をかけた。
「グズグズしてないで早く来なさい。タクシー待たせてあるんだから。詳しい話は後よ」
美有希は友美が話そうとするのを遮り、自分の要件だけを告げると電話を切ってしまった。
友美の胸騒ぎは次第に大きくなり、言い知れぬ不安へと変わっていった。そわそわと机の上のものをしまうと急ぎ足で試験会場を出た。
正門のところでエンジンをかけたままのタクシーが横付けされていた。開いたドアから中を覗き込むと怖い顔をした美有希が乗っているのが見えた。
「早く乗って。こうしている間にもタクシー代が上がっちゃうのよ」
友美は言われるがままに後部座席へ乗り込んだ。
「お願いします」
美有希の声に従うようにタクシーが走り出した。
「一体どこへ行くの? 私試験が」
「試験なんてどうでもいいわ」
「そんなわけにはいかないわよ」
友美は声を荒げた。
「パパが、事故に遭ったのよ」
「えっ?」
一瞬、空耳かと思った。すぐに父からのメールを思い出した。
「だって、パパ、朝私にメールくれたわ」
美有希が突然運転手に声をかけた。
「すいません。ラジオのボリューム上げてもらえますか?」
運転手がラジオの音量を上げると、アナウンサーがニュースを読み上げる声が聞こえた。
『……繰り返します。今日八時頃、阪神高速道路で起きた玉突き事故について、その後新たに二人の死亡が確認されました。これにより、今回の事故での死者は四名、重軽傷者は七名となっています……』
友美の胸許にざわざわと不快な感覚が襲った。
「パパの乗ったタクシーがこの事故に巻き込まれたみたいなのよ」
「パパは無事なの?」
美有希はすぐには答えなかった。
「……わからない。けど、警察からママに電話があったみたい。ママは先に大阪に向かっているわ。最悪の事態は覚悟しておいた方がいいかもしれないわね」
「そんな……」
友美の左手が小刻みに震えていた。それを押さえようとした右手も同じように震えていた。
「あんた、ちっとも電話に出ないから、暮谷の方に電話しちゃったじゃないの」
「麦達はこのこと知ってるの?」
「彼らには何も話してないわ。私が聞いたのは試験会場のことだけよ」
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