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その言葉を聞いて友美は少しだけ安心した。試験直前の麦の耳に余計な心配事を入れたくなかった。
「大阪は天気が悪いみたいだから新幹線で行くわよ。飛行機が飛ばないかも知れないから」
車は新幹線の最寄り駅へと向かっていた。それからの友美の記憶はとても曖昧になっていた。
気が付いたら病院に着いていた。どうやって新幹線に乗って、どこで降りて、どうやって病院まで来たのかをはっきりと思い出すことができなかった。
診察待ちの人達でごった返すロビーを抜け、建物の奥へと進んでいき、物寂しい廊下を歩いているときも、友美はまだ父の事故が信じられずにいた。
エレベーターを降り、ナースステーションで美有希が「木内です」と告げると、中にいた看護師が奥の部屋を指差した。友美はただ美有希の背中を見てその後を着いていくだけだった。
目の前に「ICU」と書かれた大きな扉を前にしたときもまだ映画のワンシーンを見ているような気がしてなんだか現実感がなかった。
しかし、廊下にある長椅子に座っている母を見たとき、ようやく現実に引き戻されたような感覚に陥った。
「ママ」
友美が声をかけると生気のない母の横顔が、こちらを向いた。母は娘達の姿に気付くとよろよろと立ち上がった。
「パパの容体はどうなの?」
大きな扉を見る美有希に母は黙って首を振った。
「私が病院に来たときにはもう集中治療室に入っていて……」
こんなに狼狽している母を見るのは初めてだった。
友美はじっと白い扉を見つめていた。そしてその扉の向こうにいる父に向かって、どうか助かりますようにと何度も何度も繰り返し祈った。
「友美、座ってなさいよ」
美有希はコートのポケットに手を突っ込んだまま足を組み直した。
「そんなところに突っ立ってたってどうにもならないわ」
「でも……」
友美は悠長に座ってなどいられなかった。できることなら治療室の中に入って父に声をかけてあげたかった。
「あんたが祈ろうが祈るまいが、死ぬ時は死ぬのよ」
「そんな……ひどい……」
「だから、今からパパが死ぬ覚悟を決めておくのよ。死なないと思っているから死んだときに辛くなるのよ。死んだと思って助かったら、逆に嬉しいでしょ」
友美には美有希の考え方が理解できなかった。
「パパが死んでもいいの?」
「死んで良いわけがないじゃない!」
美有希は友美を睨みつけた。
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