第1章

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 モーター音とともに扉が開くと、三人は一斉に扉の方を向いた。 「木内さんのご家族ですか?」  マスクをした看護師が声をかけた。三人は同時にうなずいた。 「どうぞ中へ」  友美の心臓は張り裂けそうになった。どくんどくんという鼓動に周りの音がかき消されていた。  治療室の中央に父が横たわる手術台があった。ベッドの周辺にある機械はどれも電源がオフになっていた。 白い布から顔を出す父の横顔が見えた。 「パパ!」  その横顔は友美の声には反応しなかった。 「パパ」  もう一度声をかけた。が、やはり父は目を閉じたままだった。  主治医と思われる男性医師が三人の側に近付いた。 「こちらに運ばれてきたときからほとんど意識はありませんでした。わずかですが心音がありましたので、我々もできる限りの処置を施しましたが……つい先ほど死亡を確認しました」  唇を噛みしめる友美の目から大粒の涙がぽろぽろとこぼれた。母も声を殺して泣いていた。 「車が追突した衝撃で、下半身は複雑骨折でした……一応ご覧になりますか?」  医師の言葉に母も友美も黙って首を横に振った。 「見せてください」  美有希がはっきりとした声で言った。  白い布をめくる美有希に、友美と母は耐えきれずに背を向けた。  美有希の目に涙はなかった。 「痛かったよね……パパは、私達が来るまで頑張って待っててくれてたんだよね。もう我慢しなくていいんだよ。ゆっくり休んでいいからね……」  そして父の顔をしげしげと見つめ、そっと父の髪を撫でた。  父の葬儀はその後しめやかに営まれた。  お通夜では会社の同僚や親戚一同のほか、多数の参列者が故人との別れを惜しんだ。その中に麦達の姿もあった。  沈痛な顔で焼香する暮谷姉妹の姿を見て、友美はどうして三人がここにいるのだろうと思った。  友美は父が亡くなってからは木内家に戻っていた。そして放心状態で何も手に付かない彼女に代わって母が連絡を取ってくれたのだった。  焼香を終えた麦が帰り際に友美に声をかけた。 「友美ちゃん、この度は大変だったね」 「うん」 「僕らのことは気にしなくていいから、気が済むまでお父さんの側にいてあげてね」 「うん」  友美と同じくらい真っ赤な目をした佳衣と結梨も彼女に何やら声をかけていた。が、よくは覚えていなかった。
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