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告別式を終え、初七日を過ぎてもまだ友美は木内家にいた。父が亡くなったショックから抜けきれず、魂が抜けたようになっていた。毎日何をするわけでもなく、外出もせずに家の中でダラダラと過ごしていた。
「友美、一緒にお父さんの部屋を整理するの手伝って」
リビングのソファーで寝転がる友美に母が声をかけた。
「パパのこと思い出しちゃうからイヤ」
それは口実に過ぎなかった。とにかく全く何もやる気が起きなかった。
「お姉ちゃんに手伝ってもらいなよ」
「美有希はとっくに自分の家に戻ったわよ。あなたもそろそろ暮谷さんちに帰ったら?」
うん、と生返事をして寝返りを打った。なんだか麦の家に戻る気すら起きなくなっていた。
結婚、という言葉を頭に思い浮かべること自体がいけないことのように思うようになっていた。
(パパが死んだのに、私が麦と結婚するなんて……)
「友美、夕飯よ」
キッチンからおいしそうな匂いに乗せて母の声がしたが、友美は返事をしなかった。
何も考えたくなかった。だからひたすら惰眠を貪った。
ブルブル、ブルブル……
遠くの方でスマホの振動音がした。寝ぼけながら辺りをまさぐっても見つからないスマホはソファの下に落ちていた。
ようやくスマホを拾い上げ、待ち受け画面を見た。麦からだった。
「もしもし……」
「もしもし、友美ちゃん?」
「どうしたの?」
「うん。どうしてるかな、と思って」
麦の声はいつもと変わらなかった。久し振りに聞いた彼の声はとても懐かしかった。
「そう言えば、試験はどうだったの?」
電話の向こうから返事はなかった。
「麦、まさか」
「うん……試験受けなかったんだ。浪人生活っていうのも経験してみようかなって思って」
友美には麦を責めることはできなかった。
「……ごめんね。こんなことになっちゃったせいよね」
「友美ちゃんのせいじゃないよ。試験を受けなかった僕のせいさ」
麦は即座に答えた。
「友美ちゃん、今どこにいるの?」
「私? 家の中よ」
「今散歩に出てるんだ。そこから外見える?」
「ちょっと待って」
友美は立ち上がってリビングの窓を開けた。彼女の全身をひんやりとした空気が突き刺した。
「月、見える?」
真っ暗な空を見渡すと、細い上弦の月が見えた。
「うん。見えるわ」
「あの月、チェシャ猫の口みたいだよね」
「チェシャ猫? あの『不思議の国のアリス』に出てくるやつよね?」
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