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どうやら麦が画像ファイルを探し当てたらしい。佳衣と結梨も目を輝かせて画面を覗いていた。
「どう? やっぱりエッチな画像があった?」
「うん。これは凄いわね」
「悩殺ものですぅ!」
決して父が真面目人間だとは思ってはいなかったので、いやらしい画像や動画の一つはあるだろうと覚悟はしていたから驚きはなかった。
「ほう、どれどれ」
麦の父も一緒になってパソコンを覗き込んだ。
「あぁ、これは凄いな。目の毒だ」
麦の父も呆れるほどの画像とは一体どれだけいやらしい画像なのか、友美は怖いもの見たさで暮谷兄妹の隙間からモニタに映る画像を見た。
「え? これって?」
麦が開いていた画像は、普通のスナップショットだった。
「友美ちゃん、これ誰だかわかるかい?」
麦がパソコンのモニタを友美の方に向けた。
青い空と雲、そして白い波。決して綺麗ではない濁った海をバックに手を繋ぐ水着姿の少年と少女の写真をじっと見つめた。
少女は不機嫌そうにカメラの方を向いていた。
「これ、私よね?」
幼い頃の自分の顔はすぐにわかった。そして自分の隣に立っているちょっとぼんやりとした柔和な顔の少年をまじまじを見つめた。
「麦!」
友美の全身に電気が走った。と同時に、彼女の中の記憶の針が一気に巻き戻され、十二年前のある夏の日で止まった。
そして、今まで固く閉ざされて決して開くことのなかった彼女の記憶の引き出しがその時、そっと開いた。
その日、後部座席に座る美有希は朝から上機嫌だった。夏休みの念願だった海水浴に家族で出掛けることができた喜びとは別に、もう一つ理由があった。
「くはしちじゅうに、くくはちじゅういち! ね、ママすごいでしょ!」
「美有希、すごいわね! もうかけ算の九九暗記しちゃったんだ!」
美有希は自慢気に白い歯を見せた。小学二年の夏休み、かけ算の九九を暗記することを自由課題として選んだ。
「まだ学校じゃ、一の段と二の段と五の段しか習ってないのよ」
「へぇ、大したもんだ」
運転していた父が感心すると、美有希はまた二カッと笑った。
「美有希は天才かも知れないわね」
「毎日かけ算表で覚えてたんだもの」
美有希はどや顔で友美の方を向いた。
「どう、すごいでしょ。あ、友美はまだ年長さんだから全然わからないか」
友美は美有希が持っていた九九の書いてある下敷きを見ていた。
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