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「友美も無事だったみたいね。ねぇパパ、また泳ぎたいわ」
美有希が海の方へ父の手を引っ張った。父は困った顔をしてずるずると海の方に向かった。
友美はもう海に入りたいと思わなかった。パラソルの下で膝を抱えて母と二人で寄せ返す波と無邪気にはしゃぐ海水浴客をボォーッと眺めていた。
何もしない、何も考えない退屈な時間だけがゆっくりゆっくりと過ぎていった。友美にはほんの五分が一時間にも二時間にも感じていた。
(いつまでここにいるんだろう……もう帰りたい……)
海を見ているのにも飽きてきた。友美は膝に顔を埋めた。
「ねぇ」
女の子の声がした。
「いっしょにあそぼ」
友美が顔を上げると、自分と同い年くらいの女の子が二人と男の子が並んで立っていた。
「海はイヤよ」
「うん。お砂場で遊ぼ」
一番右にいた女の子が手を出した。友美はその手を握りしめるとお尻に付いた砂を払いながら立ち上がった。
「大きいお山を作りましょ」
四人はパラソルの前で円になり、小さな手で砂をかき集めた。水をかけながら少しずつ大きくなった砂山はやがて五十センチくらいの高さになった。
「そしたらね、今度はね、穴を掘るの」
そう言って一人が山のふもとを掘り出した。するともう一人の女の子も続いて掘り出した。
勢いよく掘り進める二人とは違って、男の子は砂山が崩れないように慎重に砂山に手を突っ込んでいた。
「ねぇ、お名前何て言うの?」
「きうちともみ」
「ともみちゃんって言うのね。私くらしやけい」
「くらしやゆり」
そして最後に男の子が口を開いた。
「くらしやむぎ」
そう言って口許を緩めた。
「ねぇ、ともみちゃんもドンドン掘ろ! どっちが一番奥まで掘れるか競争だよ!」
争うように砂を掘る女の子二人につられるように友美も一生懸命穴を掘った。そして横穴は肘の辺りにまで達した。
「みんな、真っ直ぐ掘ってる?」
結梨の言葉に他の三人は一様にうなずいた。
『♪楽しいときは二人分~♪』
佳衣が鼻歌を唄い始めた。すると、それに結梨も続けて、
『♪悲しいときは半分こ~♪』
と唄った。
友美がキョトンとしていると、
「これはね、三人で作った歌なんだ。楽しいときとか、悲しいときに唄うんだ」
友美は二人の歌を黙って聞いていた。そしていつの間にか友美もその歌を一緒に唄っていた。
「あ、ともみちゃんもお歌唄ってるんだね!」
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