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『♪楽しいときは二人分~ 悲しいときは半分こ~♪』
何気ない歌がなんだか心地良かった。友美は何度も何度も繰り返し唄った。
「もうちょっとかなぁ」
佳衣と結梨の動きが止まった。彼女たちの様子を見て、おやっと思った瞬間、それまで湿って固かった砂から、柔らかくて温かい感触がした。
「あっ!」
「あっ!」
「あっ!」
それは佳衣と結梨の手だった。
「おにいちゃん、まだ?」
二人が麦の顔を見た。
「たぶん、もうちょっと……あっ」
友美の手に、麦の手が重なった。彼女たちと同じくらい柔らかい手だった。
四人の手が砂山の中で繋がって一つになった。
「やったー! トンネル開通!」
「大成功!」
四人は顔を見合わせて歓声を上げた。すると佳衣と結梨はおもむろに立ち上がった。
「バンザーイ!」
握られたままの手がうずたかくそびえ立っていた砂山を一瞬にして壊した。四方に砂が飛び散り、友美は思わず目をつぶった。
「ねぇ! ともみちゃん、見て!」
友美が目を開けると、風下にいた麦だけがみんなよりもたくさんの砂を浴びて頭から砂だらけになっていた。
「ハハハハハ!」
佳衣と結梨の甲高い笑い声につられて友美も笑った。
「あははは!」
その後もずっと四人で砂遊びを続けた。やがて見覚えのある男性が三人を迎えにやってきた。その顔とポッコリとしたお腹を見て、自分を助けてくれた人だとすぐにわかった。
「おーい、そろそろ帰るぞ」
友美にはその言葉が、楽しかったひとときの終わりを告げる言葉のように聞こえて、急に寂しい気持ちになった。
「やだ、まだ帰りたくない」
友美がぽつりと言った。それを聞いた麦が友美の手を握った。
「もうちょっと遊びたい」
麦が父親に向かって言った。
「じゃあ、もうちょっとだけだぞ」
そう言って父親は笑顔で戻って行った。
「ありがとう」
友美の顔にまた笑顔が戻った。
「またお砂遊びしよう」
しばらくして今度は友美の父がやってきた。
「みんな楽しそうだね」
友美は顔を上げて父を見た。
「もう帰るの?」
「もうそろそろね。あ、そうだ」
と、父は慌てて自分達のパラソルの方に向かうと、駆け足で戻ってきた。
「せっかくだから写真を撮ってあげよう。さ、みんな並んで」
そう言って父は四人にカメラを構えると、続けざまに写真を撮った。
帰り道、渋滞に捕まった車はずっとのろのろ運転だった。
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