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二人は神父の格好をした加藤を見て思わず目を疑った。
「部長、どうしたんですか?」
「え? 何が?」
加藤がきょとんとした。
「新しいコスプレですか?」
「いや、今日のための正装だよ。だって俺神父だから」
驚いている二人の後ろで、また入り口の扉が開いた。
「わぁ~! お兄様!」
「スーツ姿が凜々しいわ~!」
制服姿の佳衣と結梨が麦を見て、歓声を上げた。その隣には千秋の姿もあった。
キャッキャとはしゃぐ声が教会中に響き渡った。
「あれぇ? 加藤君ってば、今日はいつもと格好が違うね。神父さんみたい」
「だから、俺神父なの」
「じゃあ、ここって加藤君ちの教会なの?」
「ひいじいちゃんの代から続いているんだ」
佳衣の顔が急ににやついた。
「ということは、ちゃんと割礼も済ませちゃってるって訳ね。ぐふふふふ……!」
杉木が首を傾げた。
「カツレイ、て何ですか?」
「おちんちんの皮を剥いちゃうことだよ!」
「!」
杉木は顔を真っ赤にして、下を向いた。
「あれっ、お父さん達は?」
麦が尋ねた。
「お姉様のドレッシングルームに行ってるって。私も見たかったけど、本番まで我慢することにしたの」
「その方が感激も倍増だもんね!」
加藤と並んで立っている麦を見て、この人が木内先輩の花婿なのかと杉木は思った。なんだか頼りなさそうでつかみ所のないこんな男が彼女の好みだったことが彼女には意外だった。この男ならまだ加藤の方がしっかりしているように見えた。
「人ってわからないものね」
三月の雨の日、麦と友美は結婚式を挙げた。
麦と友美はそれぞれレンタル品のスーツとウェディングドレスに身を包み、麦の収入と友美が密かに貯めていた貯金で買った結婚指輪を交換した。
加藤が誓いの言葉を読み上げると、二人は契りのキスを交わした。
千秋は心から二人を祝福していた。が、まだ心の片隅には麦への想いが残っていることも事実だった。三歳の時に引っ越してきて以来、麦とは兄妹のように仲良くしていた。一緒に遊び、一緒に食事をし、時にはお互いの家にお泊まりしたこともあった。子供心に、ひょっとしたらこのまま何となく彼と結婚してしまうのかと思う時期もあった。だから、二人の誓いのキスを少しだけ複雑な気持ちで見ていた。
と同時に、祭壇に立つ二人の真ん中で、自分と同じ表情をしている加藤の顔を見逃さなかった。
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