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購買で買ってきたチョココルネのチョコクリームをスプーンで掻き出しながら食べている素子を見て、紀子がツッコミを入れた。
「あんた、いつも変な食べ方してるよね」
「だってこうしないとチョコが漏れてきちゃうんだもん~」
「それって、頭の方から食べるからでしょ!」
「そういえばこれってどっちが頭なんだろう?」
「頭って言ったら、こっちの先っぽの方じゃないの」
チョココルネの太い方と細い方のどちらが頭なのかという論争を繰り広げている素子と同じクラスのミエが尋ねた。
「あれっ? モコ、今日はお弁当だったんじゃなかったっけ?」
「お腹が空いちゃったから二時間目の休み時間に食べちゃった」
「そんなに食べても太らないあんたが羨ましいわ……」
私達四人は窓際に机を並べて外を向きながら昼食を取るのが日課になっていた。他愛のない話をしながらノンビリと過ごすこの時が学校にいる中で一番好きだった。
私は三人の会話をBGMに、登校前にコンビニで買ったおにぎりを頬張った。
「あ、そうそう。みんなにお願いしたいことがあるんだ」
思い出したように紀子が声を掛けた。
「今度の土曜日なんだけどさ」
そう切り出した紀子の顔色が急に冴えなくなったのを見て、あまり良い話ではないのだと直感した。
「起きて」
私は二の腕の辺りを誰かに小突かれて、ふと目を開けた。どうやら電車の中でいつの間にか寝ていたらしい。
「そろそろ着くわよ」
寝ぼけ眼で首を傾けると、ちょっとだけ表情を強張らせたミエの横顔が見えた。車内アナウンスが流れてしばらくすると電車は少しずつ減速していった。どうやら目的の駅に到着したらしい。
駅名を耳にして、ようやく電車に乗っている理由と私達に課せられた今日一日のミッションを思い出した。
「紀子ちゃんの貞操を守るんだからね!」
素子が力強く言った。周囲の乗客が一瞬ギョッとした顔でこちらを見た。
「いくら何でもそれほど大袈裟じゃないよ」
「ううん。こういう心配はいくらしてもし足りないくらいだよ! あたし、紀子ちゃんにもしものことがあったら、すっ飛んでって、ボッコボコにしちゃうんだからっ!」
いつになくエキサイトしている素子に私とミエは顔を見合わせて苦笑いした。
電車を降りた瞬間から三人はその異様な雰囲気を感じ取っていた。と言うよりも、感じずにはいられなかった。
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