第1章

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 ただトランプを裏にしてまた表にしただけのどこがサイキックなんだろう、と思ってみていたが、表になったトランプに違和感を覚えた。この違和感は何だろうと、もう一度目を凝らして画面を見て、私はハッとなった。  テレビの観客とゲストも私が感じた異変に気付いたらしく、大きなどよめきが起きた。 「えっ、どういうこと!?」  それまでランダムになっていたトランプは一度ウェーブを描いただけで、スペードのエースから順に二、三、四、五と続き、J、Q、K、そして次はハート、クローバー、ダイヤという順に綺麗に整列していたのだった。  この間マジシャンは左右両端のカード以外には手を触れていなかった。それはずっと彼の手元とトランプを映し出していたカメラが雄弁に物語っていた。  手品の知識が皆無な私にトリックが分かるはずもなかった。これだけ巧妙ならばひょっとして、超能力なのでは……私の中で小さな疑念が湧き上がった。  頭の中が混乱し、整理しきれないうちにマジシャンはまた次のマジックに取りかかった。今度は一枚のガラス板を取り出した。五十センチ四方で厚さは二、三センチはあろうか。ゲストの芸人がコンコンと叩いて見せて間違いなくガラス製であること、そして透明であることを証明してみせた。  そのガラス板をテーブルの上に置くと自分の手の中でトランプを伏せた状態で扇状に広げ、一人の女性ゲストを指名した。 「ここからお好きなカードを一枚、抜いてください」  私でも顔と名前が分かるくらい有名なその女優はおそるおそる一枚のカードを引き抜いた。すぐにハンディカメラが彼女の手元を映し出した。彼女が手にしたカードはクローバーの七だった。  マジシャンはくるりと女優に背中を見せ、振り向かずに言った。 「では、そのカードにサインをして、そのまま両手でしっかりと持っていてください」  女優は言われるがままにカードにサインを書き、大事そうに両手で挟んだ。彼女の手の中からカードの端っこから見え隠れしている黒いマークと数字を私は必死に目で追いかけた。この時点でまだ彼はカードに一度も触れていない。  マジシャンは手にしていた残りのカードを無造作にガラス板の上にばらまいた。 「いいですか、ここからがサイキック・マジックです」  そう言いながらテーブルのガラス板を起こすと、次々と滑り落ちていくカードの中で一枚だけガラス板にへばりついているものがあった。
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