第1章

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「赤羽先生は今日も大事を取ってお休みです」  やはりそうか、と頬杖を突いていた私に紀子が振り返って言った。 「おかしい。あんたのヒーリングが効いてないはずがない」  私自身もまだ自分が本当に超能力者なのかどうか半信半疑だというのに、紀子のその根拠のない確信は一体どこから来るのかわからなかった。  赤羽の様子が気になるのなら赤羽の自宅に電話を入れれば良いだけなのだが、紀子はどうしても自分の目で確かめたいようだった。 「授業なんか受けてる場合じゃないわ」  紀子がカバンを手にして立ち上がると私もそれに続いた。そして周囲に気付かれないようにこっそりと休み時間の教室を抜け出した。  病室では赤羽が寝ていたはずのベッドが綺麗に整頓され、荷物も見当たらなかった。当然奥さんや真理亜ちゃんの姿もなかった。 「本当に退院して家にいるのかな」  廊下を歩いていた看護師を呼び止めて赤羽について尋ねると、その看護師から予想外の返事が返ってきた。 「赤羽さんは昨夜容体が急変して、今ICUに入ってますよ」  私の背筋に悪寒が走り、貧血でも起きたかのように目の前が急に真っ白になった。膝から崩れ落ちる私を紀子が抱きかかえてくれたおかげで何とか持ちこたえることができた。  それからの記憶はあまり覚えていなかった。紀子に手を引っ張られ、気が付いたときには集中治療室の大きな扉の前にいた。”手術中”の赤い表示灯が目に入ったとき、ようやく我に返った。  通路に置かれた長椅子には赤羽の奥さんと、その膝の上に抱かれて眠る真理亜ちゃんの姿があった。  奥さんは私達に気付くと静かに微笑んだ。が、瞳の奥は決して笑っていないように見えた。 「先生は?」  奥さんは黙って小首を傾げた。 「まだ主治医からは詳しい話を聞いていないの」  冷たい通路に響く声がどこか虚しく聞こえた。奥さんの声は落ち着いていて、顔色にも狼狽の色は全くうかがえなかった。 「危険な状況なんでしょうか?」 「明け方に病院から電話があって、病院に着いたときにはもう集中治療室に入った後だったから。私もまだ主人の顔を見ていないの」  紀子は表示灯を見上げたまま固まったように動かなかった。そしてゆっくりと真理亜ちゃんの方に顔を向けた。 「よく寝てますね」 「病院に着いてからずっと泣いてたの。さっきやっと泣き止んで寝付いたばかり」
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