第1章

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 奥さんが私の方に真理亜ちゃんの寝顔を見せた。紅潮した真理亜ちゃんの頬はつるつるしていてとても柔らかそうだった。 「ほっぺたつっついてみる? すっごく気持ち良いのよ。私なんか、いつも真理亜が寝てるときにほっぺたをツンツンしてるの」  奥さんが表情を崩した。それにつられるように私も笑った。  コツコツコツ、と靴音が聞こえた。 「ゆかり、これから藤井さんに会いに行くわよ」  紀子の言葉にうなずくと、すくっと立ち上がった。 「奥さん、ごめんなさい。私達はこれで」  紀子はお辞儀をすると踵を返した。 「来てくれて、どうもありがとうございました」  奥さんにお辞儀をしてから紀子の後を追いかけた。  早足で病院の廊下を歩きながら、どうすれば赤羽を救えるのかを考えた。超能力で赤羽を助けることができないのか。超能力は何でもできるんじゃないのか。  あれやこれと考えてみたがこれといった妙案も思いつかないうちに『あみん』の入り口まで来てしまった。 「やぁ」  こないだと同じ席に座っていた藤井がこちらに向かって手を挙げた。 「急に呼び出してすいません」  紀子が頭を下げてから席に着いた。 「いいえ。お二人の一大事だと聞いて、本当は収録が入っていたんですけどスケジュールを変更させてもらいました」 「えーっ、大丈夫なんですか? 本当にごめんなさい」  紀子が頭を下げているところに、マスターが水とおしぼりとメニューを持ってやってきた。 「嘘々。今日は収録なんてないんだって」  マスターは眉間にシワを寄せながら大袈裟に手を左右に振った。 「共演者が急病で倒れちゃってリスケになっただけなんだから」  藤井はハハハと笑い飛ばした。 「スタジオに入ってから聞かされれましてね。せっかくなので、そのままの格好で来ました」  確かに初めて会ったときよりも髪型もちゃんとしているし、スーツもちょっと高級感があった。 「スーツは体型に合っていないとテレビ映りが悪いというので、全てオーダーメイドなんです。爪もそう。テレビだと大抵手がアップで映りますからね。だから手だけはエステに通って綺麗に手入れしてもらってるんですよ。こういうのって結構お金がかかるんですよね。ほんと、馬鹿にならないんですよ」
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