第1章

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 超能力者になりたいと思っていたのは間違いなく本心だった。超能力は万能で、超能力があればどんなことも実現し、何でも思い通りになると信じていた。もちろん、何の根拠もない究極のない物ねだりなのかもしれない。それでも願わずにはいられなかった。  ところが、ない物ねだりのはずが、もしも第三者から『あなたには超能力がある』と言われたらどうだろうか。今度は、本当に私なんかに超能力があるんだろうか、と疑問を抱き、その存在を安易に肯定しようとしない自分がそこにいた。  他人からすれば矛盾しているようにも映るが、要は自分自身が信じられないだけなのだ。私はテストで0点を取るようなことはあっても決して百点を取れるほど頭脳明晰ではない。そんな自己暗示を常にかけ続けていた弊害だろうか。  確かに私が念じたスプーンは曲がっていた。が、それはあくまでも後日談で、自分自身スプーンが曲がる瞬間を見たわけではなかった。時計の件にしても同様だ。  かと言って、紀子や初対面の藤井らが私を担ごうとして演技をしているようにも見えない。ましてや私を騙すためにスプーンを曲げたり時計を止めたりするだけの遊び心をお母さんや美樹が持っているとは到底思えなかった。  唯一、ESPカードを五枚連続で当てたこと、藤井の目の前でも連続でカードを当てたことについては否定はしない。ただし何十枚もあるカードから五種類の模様を五枚連続で正解することは確率的にはゼロではない。本当に単なる偶然だった可能性は十分考えられる。  『あみん』で自分はエスパーだと自覚したと思っていたが、それからの自分の行動が自覚する前とこれっぽっちも変わっていないことで、私の中の自覚は次第にまた元の疑心暗鬼へと戻っていった。  本当に私はエスパーなんだろうか。  煮え切らない思いが自分の中で渦巻いていた。夜、布団に潜ってからもその思いはずっと頭の中を交錯し、翌朝起きたときもまだ脳裏に焼き付いていた。  朝から雲一つない快晴の見本のような好天に恵まれた。が、私は朝起きたときから全く晴れ晴れとすることはなく、鉛色の気分のまま鉛を履いたような足取りで登校した。今日は数学の答案が返される日なのだ。
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