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彼女の言葉に少なからずショックを受けた。赤羽が休んでいる理由が入院だったとは。しかし、彼女が病院に行きたがっている理由がわからなかった。ひょっとして紀子は密かに赤羽のことが好きだったのか? 休み時間中ずっと教室を出ていたのは赤羽の状況を知るために職員室で情報収集していたからなのか。
「紀子、あなたそれほどまでに赤羽先生のことを……」
私は紀子の一途な思いに胸を打たれた。親子ほども歳が離れてはいるが、恋愛で重要なのは年齢差ではなくどれだけ相手のことが好きなのかということだと思う。ちょっと嫌味な口調が生徒には不評だが紀子はそんな風評には耳を傾けないだけの一途な想いがあると言うことか。
「勘違いしないで」
紀子はピシャリと冷めた声で言い放った。
「私、赤羽には興味ないの。興味があるのはあんたの超能力だけよ」
彼女の無感情な言葉は、私の独りよがりなロマンスの妄想を否定するには十分すぎた。
「病院へ行って試してみたいことがあるの」
病院で試す? 何を? 私がポカーンとしていると紀子はやっと口許を緩めた。
「正確には、病院で入院している赤羽にあんたの超能力を試してみたいってこと。あんたにヒーリングができるのか確かめたいのよ」
紀子は私にちゃんと説明したと思っているようだが、私の中に湧き上がった“?”はまったく減ることはなかった。
「いい? ヒーリングって言うのは“治癒”のことで、れっきとした超能力の一種。あんたにヒーリングの能力があるのか、もしあったとして、そのヒーリングで赤羽が元気になるのかどうかを試したいの」
私は一応うんうんと小さくうなずいて見せたが、まだ頭の中で彼女の言葉を整理することができずに目は宙を泳いだままだった。
「とにかく一緒に病院へ行くわよ」
午後の授業が終わると同時に私達は教室を出て、駅とは逆方向のバスに乗り込み、目的地に向かった。二日続けて素子とミエに黙って先に帰るのはちょっと気が引けたが紀子は意に介さなかった。
「二人には結果が出てからで良いわ。いちいち説明するのも面倒だし、それにみんなでわいわい病院へ押しかけたら迷惑でしょ」
紀子はバスの吊革に掴まりながら前を向いたまま答えた。
「紀子、病院の場所はわかってるの?」
「もちろん。ちゃんと地図ソフトで検索済みよ」
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