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紀子の歯の浮くような言葉に背中がくすぐったくなった。
「パパー」
女の子が赤羽に向かって手にした風船を見せた。
「お、真理亜、風船かい。いいね」
赤羽は真理亜ちゃんをひょいと抱え上げ、ベッドの端に彼女を座らせた。真理亜ちゃんは嬉しそうに風船を見上げながら足をブラブラとと揺らしていた。
「あのね、ふーせん、おねーちゃんにとってもらったの」
真理亜ちゃんが私の方を指差した。
「病院で真理亜が風船を手放しちゃったのをエスカレーターのところでナイスキャッチしてくれたのよ」
「へぇ、白岡も人の役に立つようなことをするんだな。いや、ありがとう」
私達は奥さんがどこからか持ってきてくれたパイプ椅子に腰を下ろした。
「ところで先生、お身体は大丈夫なんですか? 見たところ大きなケガもしていないみたいですけど」
赤羽の話では、車で学校へ向かう途中の交差点で信号無視をしてきた乗用車に側面から追突されたらしい。幸い外傷は見られないものの衝突の際にドア側の窓に頭をぶつけたこともあり、救急隊員から念のため検査を受けるように言われて入院したという。
「ケガよりもローンの残った愛車がボコボコになったことの方が何倍も痛いよ」
「何を言ってるんですか先生。命あっての物種ですよ。どうせ自動車保険に入ってるんだから全部ペイできるじゃないですか」
気が付くと、奥さんの姿が見えなくなっていた。
「ところで先生、せっかくなのでちょっと試したいことがあるんです」
本題に入った彼女が身を乗り出した。赤羽はキョトンとした顔をしている。
「これがうまくいけば、先生のケガがたちまち治るはずなんです」
「何だ、インチキな薬か怪しい宗教団体の勧誘か」
紀子の言葉だけ聞いたら大抵の人はそう思うだろう。
「先生、超能力って信じますか?」
「超能力? ま、あれば良いなとは思うけどな」
「実は白岡さんにはその超能力があるんですよ!」
紀子が私の肩を叩いた。赤羽はほぉー、と小さく驚いてみせたが、その顔には不信感がありありだった。
「ヒーリングという能力なんですが、彼女の超能力を使って先生の身体を治してみたいと思います」
「ほぉ」
「さ、先生、手を出して」
赤羽がイエスともノーとも言わないうちに紀子は彼の右手をぐいっと引っ張り、私の前に差し出した。
『どうやればいいのよ?』
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