あの光に包まれたとき本当は少しだけ後悔してたんだ

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 布団をかぶって泣いているおれは、確かに男らしさが足りない。自覚はあるんだ。でも今日、斉藤霞にそれが理由で振られたのは納得できない!  霞はクラス一番の美人で、ずっと高嶺の花とあきらめていた。  今から一ヶ月前の三月、おれたちはまだ高一だった。そして三学期の終業式の日の前日――  もうすぐクラス替えで別のクラスになって離れてしまうかもしれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなった。勢いだけでダメもとで告白したら拍子抜けするくらいあっさりOKをもらえたので、付き合いはじめた――つもりだった。  それなのに、昨日の夕方、知らない男と手をつないで歩いている霞を見かけた。さすがにその場で声をかける度胸はない。  昼休み、学校の空き教室に連れて行って誰なのか聞いてみた。  「私の浮気を疑ってるの?」  「そういうわけじゃないけど、ちょっと気になったから」  「浮気じゃないから」  「安心したよ」  「本気だから」  「えっ」  「男らしさが足りないコガラシくんといっしょにいても、胸がドキドキしないんだよね」  たった一ヶ月の恋だった。最後にほかの男と手をつないでいるのは見かけたけど、実はつきあってたはずなのにおれ自身はまだ霞と手をつないだことがなかった。一度さりげなく霞の手に触れようとしたけど、同じようにさりげなく霞に避けられて、それ以来手をつなごうと挑んだことはなかった。  分かってる。だからヘタレだということも、〈男らしさが足りない〉と言われてしまうことも。分かってるけど、そんなの性格だからしょうがないじゃん。  〈いつか絶対、霞以上の女と手をつないでやる!〉  心の中で叫んだけど、  〈まあ、無理だけどね……〉  確かに男らしさが足りないおれは今日もまたすぐにへたれるのだった――
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