あの光に包まれたとき本当は少しだけ後悔してたんだ

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 四月下旬の夕方は布団にくるまって震えるには少々暑すぎた。霞だと思って布団を窓の方へ投げ飛ばす。そのとき、おれは確かに窓の向こうにいる霞以上の少女と目が合った。  ここは一軒家で、おれの部屋は二階だ。ベランダもない。窓の外に訪問者がいるなら、下着泥棒くらいか。でも、下着は干してないし、おれは男だし、何より訪問者は同い年くらいの女の子だ。  彼女はなんのためらいもなく窓をがらがら開けて部屋に入ってきた。透き通るような白いドレスに身を包んでいる。背中に小さな羽根が二つついていて、かすかに揺れている。  「天使が泊まるにはちょっと狭いけど、今日のところはがまんしてあげるから、ありがたく思いなさい」  思わず聞き返した。  「天使?」  「そう、天使」  見た目がかわいいのは認めよう。天使のコスプレもよく似合ってる。でもおれがいくら振られたばかりだって、電波女は嫌だ。さっさと出ていってもらうに限る。  「実はおれは悪魔なんだ。君が天使なら、ほかを当たった方がいい」  「悪魔?」  「そう、悪魔」  女は困ったような顔をした。  「それが本当なら、あなたには死んでもらわないといけないのだけど」  「いいよ。でも、もしおれを倒せなかったら出てってね」  おれが言い終わるより早く、少女は右手を真上へ突き上げた。手のひらに白い光が生まれ、またたく間に部屋中が光に包まれた。  「魔弾、ローリング・リトル・サン(転がる小さな太陽)! 神に代わりてわがために、星よきらめきたまえ!」  かわいい女の子が古くさい呪文を舌ったらずな口調で唱えるのを聞くのはなんだか微笑ましい――なんてマッタリしてる場合じゃない。  少女が両手を胸の前で構えると、部屋中の光が胸の前に集まってボウリングのボールくらいの大きさになった。彼女は両手をおれの方へ突き出して、ためらいなく集めた光を発射した。経験したことのないまぶしさに耐えかねて、おれは目を閉じた。  目を閉じても光の洪水が押し寄せてくる。ヤヴァイ!と思った。ヤバイじゃなくてヤヴァイだ!  次の瞬間、とてつもない衝撃を前から受けて、おれの意識はそこで途切れた。
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