あの光に包まれたとき本当は少しだけ後悔してたんだ

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 目の前に天使がいた。年はおれと同じくらいか。白いドレスを着て、金色の髪はさらさらと腰まで流れ、背中からは一組の小さな白い羽根が生えて、晴れた日の川面のように、全身には光があふれている。  天使なんて見たことないから天使がどういうものかおれに分かるはずないのに、少女は疑問の余地がないくらい完璧に天使だった。翼があれば天使かといえば、そんなわけでもないと思えてくるのはなぜだろう? 天使になんかトラウマでもあったっけ?  翼のあるなしは関係なかった。すべての面において、目の前の金髪美少女はまさしく絵に描いたような天使だった。  天使がおれの右手を握っている。霞以上の女と手をつないでみたいと思ったけど、知らないあいだに願いはかなっていた!  死んだのだなと思った。あの金髪にもさわってみたい。死んだのだからいいよね? たとえ駄目でも天使なら許してくれるはずだし。  空いた左手を伸ばして髪にふれてみる。これよりさらさらしたものがこの世にあるだろうかと思った。でも、そういえばここは〈この世〉ではないのだっけ?  気がつくと、天使の顔が鬼(もちろんこれも見たことないが)みたいに怒っている。  「人間のくせに調子に乗るな!」  顔をグーで殴られた。死んでも痛みから逃れられないことを知った。  「つーか、死んでないから」  天使は天使のくせに言葉遣いは美しくなかった。いやいや、それよりこいつ、人の心を読めるのか?  「読めるよ、天使だもん」  目の前の自称天使のことは置いといて、とりあえず死んでなかったことを喜んだ。
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