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ずるずると長引いた厳寒が終わりを迎えた頃、立山恭弥は、部屋を探しに八王子市まで来ていた。受験戦争を勝ち抜いて、志望校への合格を果たしたはいいものの、肝心の住処がまだ決まっていない。
「1Kでもこの家賃の部屋しかないですかね?」
「そうですね…これより安い部屋となると、都心からもっと離れないとこちらでは紹介できないです」
不動産屋を十軒以上回ったが、恭弥の希望通りの部屋は見つからなかった。
母子家庭で育った恭弥は、実家には頼れないことを覚悟の上で進学を決めた。奨学金を借りればなんとかなるだろう。そう考えていたが、現実は甘くなかった。
都内の有名私立大学に行けば、人生が好転する。そう信じていたが、そもそも貧乏人が通えるところではなかったのかもしれない。
大通りを何度も往き来したせいで足がパンパンだ。街には、大学生と思しき若者たちが、悩みなど一つもないような顔で歩いている。今は春休みか。
彼らへの強い羨望は、徐々に焦りへと変わる。
もう少し、離れた地域で探すか…
そう思った矢先、ふと、小さな看板が目に入る。
“学生向けシェアハウス紹介します!!”
創英角ポップ体で書かれたそれに縋るように、恭弥は寂れた雑居ビルのドアを開けた。
「すみませーん」
恭弥の声が、オフィスに響き渡る。窓にはところどころ折れ曲がったブラインド。天井の蛍光灯はチカチカと自らの寿命を訴えている。
「はいはい」
ドスの効いた声とともに、オフィスの奥から人が現れた。
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