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「この部屋には入るなと、最初に申し上げましたよね?今日、鍵をかけ忘れたのは私のミスですが、あなたが約束を破ったのも事実。しかも、そんな穢らわしい女まで連れ込んで」
「ちょっと、穢らわしいって何?まじできもいんですけど。てかおっさん、これって監禁だよね?若い女を部屋に閉じ込めてさ。犯罪じゃん。警察呼ぶよ?」
向井さんは、ゴミでも見るかのように真奈美を睨みながら、淡々と話し始めた。
「セシア様は、私の実の娘です。高校卒業とともに、教会の御神体として身を捧げることを自ら決めました。私たち教会では、純潔の乙女を祀ることで神の恩寵を賜っています。あなたのような汚い女とは違うのです」
散々な言いようだった。このままでは殴り合いの喧嘩に発展しかねない。
追い詰められた恭弥の頭に、ふと、一つの提案が浮かんだ。怒り心頭の真奈美を宥めて、向井さんの方へと歩み寄る。
「この度は、プライベートに土足で入るようなことをしてしまい、申し訳ございません。好奇心からとはいえ、勝手に部屋に侵入したことは決して許されないことでしょう。僕たちはあなたの思想や宗教を否定する気はありません。先ほどこの女が、警察を呼ぶなどと発言しましたが、そのようなことはいたしませんので安心してください。しかしながら、一つだけ、不本意なことがあります。僕はこの部屋に住み始めた当初、向井さん、あなたとルームシェアするという契約でした。しかし実際は、もう一人住んでいた。これは契約違反ではないですか?」
向井さんの冷たい目が、徐々に熱を帯びてきた。チャンスとばかりに、恭弥はまくし立てる。
「御神体があるとは聞いていましたが、それが生きた人間だとは思いませんでした。正直驚いています。二人でシェアしていたはずが、実は三人でシェアしていた。とんだ裏切りです。そこで、僕からの提案なのですが…」
ここで一呼吸置く。背後でガタッと物音がした。
「今月から、僕が払う家賃を三分の一にしてくれませんか?」
家賃3万円が2万円になれば、恭弥の大学生活はより良いものになるだろう。それは、聖真愛の利他的な教義にも適っている。恭弥はいつになく真剣な眼差しで、向井さんの返事を待った。
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