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授業が終わって一人で正門へ向かっている途中、スマートフォンが鳴ったので、波瑠夏は足を止めずにカバンをあさって取り出した。送信者は、今日学校では会わなかった友人の一人だった。何の心づもりもなくメッセージを確認すると、
『今、S駅の近くにいるんだけど、これ、ハルカの彼氏だよね? ヤバくない?』
という文面のあと、見覚えのある街中を、恋人と同じ顔をした人が、知らない女性と腕を組んで歩いている画像が貼り付けてあった。その、いかにも親しげな様子は、どんなに頑張っても友人同士には見えなかった。
「――なにこれ……」
頭に血が上るという感覚を、生まれて初めて味わった。声を荒げることもなくそう呟いた他は、何も言葉が浮かばず、口の中の僅かな唾液を喉を鳴らして飲み込んで、深く考えることもできないまま、衝動に任せて彼に電話を掛けた。
「もしもし?」
正門へと続く道の、ど真ん中でも端っこでもない、中途半端な位置に立ち止まる波瑠夏の耳に、いつもと変わらない調子の声が聞こえてきた。
「今どこ? 誰と一緒?」
波瑠夏の口から、自分でも聞いたことがないほど硬い声が出る。でもそれが、電話の向こうにまで伝わったかどうか、向こうが読み取ったかどうかはわからない。
「……え? 外だけど、一人だよ?」
平然と答えた彼に、頭とか目の中の毛細血管が切れるくらいの勢いで、怒りが身体の中を駆け巡った。
「ウソッ! 友だちが写メ送ってきて知ってるんだからね! 一緒にいるの誰よ!?」
人目を憚らず、こんな大声を出したのは、物心ついてからははじめてだ。もちろん、そんなことを冷静に考えている余裕はなかったが。
そんな波瑠夏に対して彼は、
「…あぁー……」
まったく慌てる様子がなかった。
「答えなさいよ!」
たぶん、今まで言ったことのないくらいの強い口調で問い詰めると、何か予想をしていたわけではなかったが、もし予想していたとしても、これはなかっただろうという選択肢から、彼は答えを出した。
まず聞こえてきたのは溜め息で、その後、
「残念。もう少しいけると思ったんだけどな」
と続いた。波瑠夏は、本気でわけがわからなかった。
「はぁ?! 何言っての?! 浮気しといてどういう開き直りよ?!」
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