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朝、教室で僕は自分の席に座っていた。
昨日の事故は早くも広まっていた。当然と言えば当然のことだが、僕が耳にした話では様々な憶測が飛び交っていた。
単なる事故。誰かの悪戯。過去に亡くなった運動部員の怨念が乗り移った等々。流石に最後のは無理があるが、どの話の中でも一貫して被害者が現れなかった。どうやら昨日は誰にも目撃されなかったらしい。後は皆の興味が消えるのを待つばかりだ。
「おす。アライ」
僕が心の平穏を願っていると声をかけられた。出原が立っていた。今登校してきた所なのだろう。他の生徒もちらほらと教室に入ってきている。
「HR前に便所行っとこうぜ」
「うん」
出原とは高校に入学した初日、席が前後だった関係でなんとなく話すようになった。サッカー部に所属している出原は、短すぎないスポーツ刈りと整った顔立ちが相まって爽やかイケメンという言葉がよく似合う。中学時代から体育会系特有のノリは苦手だったが、出原は教室内でそういうノリが発生した時、一歩引いた様子を見せる。
「アライはもう知ってる?照明のこと」
「知ってるよ。さっき見た。落ちてきたんだって?」
実はその場にいたなんて言わないけど、自分でも白々しい台詞だと思う。
「そうなんだよ!俺落ちる瞬間見てなかったんだけど、すんごい音したんだよ」
「へぇ結構騒ぎになったんだね。・・・怪我とかした人はいなかったの?」
実は昨日から気になっていたことだ。現場にいた出原なら何か知っているはず。しかし出原が何か言う前にトイレに到着してしまい、出原の注意はそちらに向いてしまった・・・タイミングの悪い。
「混んでんな」
「しょうがないよ。うちの学校何故か男子トイレ狭いし」
廊下まで続く待機列を眺めごちる出原に、慰めをかける。
とはいえどうしたものか。実をいうと、さっきまでそれほど催していなかったがトイレの前まで来たことによってその気になってしまった。
「どうする」
「あー、じゃあ戻るか。それほどしたかったわけじゃなかったし」
ならなんで僕は誘われたんだろう。お陰で僕の方がトイレへ行きたくなってしまったではないか。
出原には先に教室に戻ってもらい、僕は職員室方面へ向かった。同じく一階にある職員室側にもトイレが存在する。あくまで教職員用だが、生徒が使ってはいけない校則はない。先生と鉢合わせするリスクにさえ目をつぶれば何も問題はないのだ。
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