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吾輩は袋を持つ飼い主の手に向かって猫パンチを浴びせた。自身で最高の連続技だった。
しかし、不覚だった。
バシャ~ン!!
吾輩は飼い主の腕から滑り落ち、水槽に転落した。
昨晩、爪の手入れをされてしまったのが仇となった。余計な事をしてくれたものだ、わが飼い主よ。しかしこれも飼い猫の宿命か。
「ママー! 万太郎が水槽の中に落っこちちゃったよー」
飼い主の叫ぶ声が遠ざかってゆく。
まぁ、慌てることはない。吾輩は泳ぎが得意である。
ただ、これでちいちゃんに嫌われてしまうことになるだろうことが、何ともやるせない。
驚かせて申し訳ない。お主の世界を乱すつもりはなかったのだ。
すると水中で開けた吾輩の眼前に、あのちいちゃんがゆらゆらと泳いできた。互いに目が合った。やはり怒っているのだろうかと気になって仕方ない。
吾輩は水中でそっと、ちいちゃんに前足を伸ばした。
するとちーちゃんは吾輩の目の前にするすると寄ってきて、ぱくっ!伸ばした前足の肉球に甘噛みを食らわせたのだ。
ちーちゃん、ちーちゃん……ああ、なんて愛しい獲物なんだ!
吾輩の獣としての本能が、愛という感情に摩り替わり心を満たしてゆく。
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