吾輩は魚が大好きである

3/5
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 吾輩は袋を持つ飼い主の手に向かって猫パンチを浴びせた。自身で最高の連続技だった。  しかし、不覚だった。  バシャ~ン!!  吾輩は飼い主の腕から滑り落ち、水槽に転落した。  昨晩、爪の手入れをされてしまったのが(あだ)となった。余計な事をしてくれたものだ、わが飼い主よ。しかしこれも飼い猫の宿命か。 「ママー! 万太郎が水槽の中に落っこちちゃったよー」  飼い主の叫ぶ声が遠ざかってゆく。  まぁ、慌てることはない。吾輩は泳ぎが得意である。  ただ、これでちいちゃんに嫌われてしまうことになるだろうことが、何ともやるせない。  驚かせて申し訳ない。お主の世界を乱すつもりはなかったのだ。  すると水中で開けた吾輩の眼前に、あのちいちゃんがゆらゆらと泳いできた。互いに目が合った。やはり怒っているのだろうかと気になって仕方ない。  吾輩は水中でそっと、ちいちゃんに前足を伸ばした。    するとちーちゃんは吾輩の目の前にするすると寄ってきて、ぱくっ!伸ばした前足の肉球に甘噛みを食らわせたのだ。  ちーちゃん、ちーちゃん……ああ、なんて愛しい獲物なんだ!  吾輩の獣としての本能が、愛という感情に摩り替わり心を満たしてゆく。     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!