18人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
吾輩は混迷中の猫である
ある夜、土管の形をしたオブジェの中で眠っているちいちゃんを見つけた。
吾輩が瞳孔を丸くして爛々とさせその土管の中を覗くと、暗闇の中にちいちゃんの顔が浮かび上がった。吾輩と目が合ったが、眠っているちいちゃんは気づいていないだろう。
土管に隠れているそんなちいちゃんもやけに愛らしい。
しかしそこには理由があった。ちいちゃんが気晴らしに土管の中から顔を出すと早速、ギロがちいちゃんを突っついてきた。ちいちゃんは必死に逃げるが、執拗に後を追ってきて尻尾に食いついてくる。
なんてことをするんだ、このデカ金魚は!
吾輩は猫パンチを食らわそうとして水槽に前足をかけた。その瞬間ギロは殺気に気づいたのか、素早く水底に潜り込んで間合いを取った。ちっ、逃したか。
冷静になって考える。強い者が生き残り弱い者が淘汰される、それは自然界の掟だ。このヒエラルキーを外界のものが干渉し崩すことは許されない。
吾輩は猫である以上、この金魚の世界を黙って見届けるべきなのだ。
ある日、我が飼い主の話が耳に入った。
「あなた、ギロが病気かもしれないのよ。なんだかヒレが白っぽくなってるわ」
最初のコメントを投稿しよう!