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吾輩は新しい自分を発見した
その三匹を眺めていると、吾輩はあることに気づいた。この金魚の世界でも力関係というものが存在するらしい。
飼い主が一日一回のエサを撒く時間になると、ギロは悠々と水面を占拠し、その領域を我がものとする。近づく二匹を体当たりで邪魔するのだ。しかも一番小さい「ちいちゃん」のことを口先で突っつき苛めるのだ。
なるほど、金魚の世界は厳しいらしい。吾輩はその「ちいちゃん」の行く末を見守ることにした。
餌を食するのすら、ちいちゃんにとっては容易なことではないようだ。
ギロが餌を鱈腹食べている間、ちいちゃんはギロの目を盗み、その小さな口で一粒だけ咥え、水底に潜り水槽の端に避難する。そこでその一粒を腹に収めようと必死にモグモグする。その餌はちいちゃんには少しばかり大きくて、時々口から飛び出して慌てて拾いに行く。
健気である意味可愛いらしい。なかなか好感が持てる、獲物だ。
それから二枚重ねの葉っぱを模ったオブジェの隙間で眠るのが好きなようだ。
吾輩と違って目を開けたまま眠るところがいささか奇妙に思えるが、種族が違うからそこは許すとしよう。気に入らないことはネコパンチ一発で解決するかもしれないが、ひ弱なこいつはイチコロだろう。ここは穏便に、我慢だ。
寝ているせいでフワフワと魚体が葉っぱの隙間から離れていく。気がついて慌てて隙間に戻っていく様は、それもまたいじらしい。
その小さな脳みそで遊びが好きだということにも、吾輩は気づいた。
水底から勢いよく水面にジャンプし、そしてまた水の中に潜っていく。すると口からポコポコと空気の泡を吐き出すのだ。刹那の空中散歩の、お土産だ。
そして水に空気を溶かすためのぶくぶくと立ち昇る泡も気に入っているようだ。自分から飛び込みどこかに流されてはまた戻ってくる、そんなことを繰り返している。「泡乗りちいちゃん」とでも呼んでみるか。
吾輩は自身が可愛い猫だという自負がある。
しかしそれだけではない。獲物を可愛いと思う寛大さも持ち合わせているらしい。
吾輩は新しい自分を発見した。
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