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サイボーグだって腹は空く。
悪党が未来にもたらすであろう危機よりも今、目の前にある切迫した状況をなんとか脱さねばならない。
「ねーねーコウシロウ、コレなぁに?」
ちゃぶ台を挟んで向き合う少女が真顔で瞬きする。皿の上にのってるのは、昼食のメインディッシュだ。
「ちくわ、だが」
「いや、そうじゃなくて」
「魚介のすり身を筒状にして、焼くか蒸すか茹でるかしたものだ。ちなみに群馬では串に刺して衣をつけて揚げ、ソースで味付けしたホルモン揚げという亜種が存在しており、ホルモンを揚げたわけじゃないのに」
「だー、詳しく知りたいわけでもなくて!」
子猫みたく、くわりと八重歯をむく少女。
じっくり観察して改めて思うが、この子の容姿には驚くほどに現実味がない。星々の瞬きを繊維状に凝縮したような銀髪といい、まん丸い宝石の中に澄み渡る青空を閉じ込めたかのような碧眼といい、まるで人に愛されるためだけに計算して形作られた愛玩人形だ。あどけない雰囲気を纏う、折れそうに華奢な体つきもまだ発展途上という印象だが、そんな未成熟さすらも見る者の庇護欲を刺激する要素として効果的に働く。
これで中身も可愛ければ、完璧なんだが……
彼女は、同居人の天野そあら。またの名を、惑星の運命に導かれし敏腕魔法少女『ぷらねたん』という。
「ねェ聞いてる? ぼーっとしちゃって。育ち盛りの子供にこんな粗末な食事を出すとか、もう虐待よ?」
そあらくんは、遠慮なく詰め寄ってくる。
ラフなタンクトップ姿のうえ、ブラもつけてない。動作のたび、ささやかな胸のふくらみが布の隙間からチラつく。耐えかねて目を落とすと、極短パンに締め付られて強調された太ももの白さに視界を焼かれる。
男の前なのに、無防備にもほどがあるぞ。
美少女だという自覚を少しは持たんか、まったく。
「俺と同い年のくせに何を言うか!
だいたい誰のせいでこうなったと思ってる!」
こちらも接近していって鼻先をくっつけてやると、「ふぇ!」と声をあげて怯んだので、たたみかける。
「理由いち、キミがつまみ食いするから食材がない。その二、キミの無駄買いがひどくて食費がない。その三、給料日までの残り二週間を食っていくには、このメニューが最適だとサイボーグ頭脳で判断したまで」
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