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◇ ◇ ◇
トライサンダーをとばして辿り着いたのは、ビル街のド真ん中に位置する広場。近くに川も流れており、特撮モノのロケ地としてもお決まりのロケーションだろう。そこでは当然、区民の絶叫こだます地獄が展開され……
てはいなかった!
むしろ、人々は晴れやかに微笑んでいるではないか。
「えへへ宝くじ一万枚買っちゃった。当たったら富士の樹海に別荘かまえるんだぁ楽しみだなぁ」
「うふふブランドもんのブラウスもスカートも着る予定ないけど買っちゃった。カードの上限いっぱいでも我慢しなくていいんだぁ多重債務者になればいいもんねぇ」
「あはは欲しかった外車、一気に三台も買っちゃった。よ~し、1キロごとに乗り継いで帰宅してやんぜ~特に意味はないけど~自分へのご褒美じゃ~ん贅沢だわぁ」
どいつもこいつも良い年して、みっともなくハシャギまわっており、正直ウザい。
いったい何が起きているのか。
答えはすぐに判明した。バカ騒ぎの中心には……全長約5メートルの中途半端な巨人が佇んでいる。タッパの割にバランスの悪い四頭身であり、ブタさんの貯金箱を象る特徴的な頭部が割合の大半を占める。さらに奇妙な事にそいつの首から下は、おかしな言い方だが、質量を持つ影のような黒い霧によって構成されているらしい。
『ヨクボーンッ!』
黙って突っ立っていれば単なる珍妙なモニュメントで済みそうなのに、巨人は鳴き声を上げて、しこを踏む。
「化け物め、どう見ても貴様がこの事態の元凶だな!」
『ボン?』
聞く耳はあるらしく、巨人がこちらを向く。
俺はトライサンダーの後部座席に寝かせた、ぐるぐる巻きのそあらくんの頭を撫で、敵と睨み合う。
「待っていろ。こいつを倒して、必ず元に戻してやる。ゆくぞ変身……」
決意のもと、ポーズをとりかけた直後の事。
巨人の反対方向から予想だにしない衝撃が襲い来て、俺の背中に突き刺さる!
真横に走る雷に打たれたようだ。痛みこそないものの装甲は砕け、人工筋肉に重度の熱傷を負った事を、脳内アラートが告げる。俺は片膝をつき、即座に振り向く。
「新手か、何者だっ!」
後方10メートルの地点にある噴水の陰から、小柄な女の子がひょっこりと姿を現す。
「……あたちは、ネダリー。三幹部の、ひとり……」
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