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くわえたおしゃぶりの奥から漏れ出す声は、さえずるようでいて恐ろしく平淡な呟き。
緑を基調としたゴシックロリータドレスという派手な装いに反し、どんより暗い雰囲気を総身に纏う子供だ。シニヨンにまとめた茶髪を大きなヘッドドレスが覆い、その下に覗く幼い顔貌から推察するに、年の頃は小学生くらいだろう。僅かに露出する肌は、毒々しいほど真っ青であり、彼女が地球人類ではない事を示す証だった。
「……ダイボーガー・大地コウシロウ。総帥『ハドー』様の名において、あなたをこの世界から抹消する……」
「貴様がシャドーネビュラか? 俺の命が狙いならば、そあらくんを巻き込むな!」
「……しゃどー、ねびゅら……?」
ネダリーと名乗る幼女は、まつげをしばたたかせて、可愛らしく小首を傾ぐ。
「なぜこんな非道な真似をする! そしてキミは大きな子なのにどうしてまだおしゃぶりつけてるんだ!」
「……ばぶ、あたち赤ちゃんだもん……」
今度はちょっとむくれて、台本でも読むかのような、辿々しい言葉を続ける。
「……えと、我らの使命は人類の欲望を解き放ち、あるべき循環に還す事。抑圧されてた感情が昇華してみんな幸せ。この調子で催眠魔法を拡散すれば、全都民が破産して経済は頭打ち、東京崩壊。やがて日本も終局……」
なんというむごい計画よ!
周りを見回せば、「ほしい~ほすぃ~」と呪文めいたうわ言を連呼して狂喜乱舞する群衆で、ビル街の広場は埋め尽くされつつあった。誰もが確かに幸せそうだが、先に待つ絶望の絞首台から目を背けているに過ぎない。
「許さん! 貴様らの思想がどれだけ崇高か知らんが、これではもはや人ではない、欲望の奴隷だ!」
「……その通り、これぞホモサピエンスのあるべき姿。 邪魔するくびきは薙ぎ払う。国も、あなたも……」
『ヨクボーンッ!』
ネダリーが説明しきるまで待機していたブタ貯金箱の怪物が唸り、突進してくる。
溜めを挟んで繰り出すは、右正拳突き。
サイボーグを舐めるなよ。単なる物理攻撃ごとき弾き返してくれる!
目前に迫る巨大な拳を拳で迎え撃とうとした、刹那、敵のそれがパッと開いて掌底へとすげかわる。
手のひらの中央からとつぜん迸ったものは、
福沢諭吉。
機械化による超視覚でも数えきれない諭吉の嵐!
完全に虚を突かれた俺は為す術もなく、怒濤の勢いで降りそそぐ紙幣の濁流に呑み込まれてしまう。
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