二コマ目「ネダリー登場! 恐怖! 東京都ご破算作戦!」

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 深刻なダメージを負っている。  細マッチョ外骨格に幾筋もの亀裂が走り、血液と潤滑油が火花と共に流れ出す。起き上がりたくとも、関節のあちこちが悲鳴にも似た軋み音を上げるのみ。なぜだ、捕まっていたのはほんの数秒のはずで、他に攻撃など。 「……可哀想なひと。目覚めなければ、幸せな夢の中で死ねたのに……」  ネダリーが、てくてくと歩み寄ってくる。懐から取り出したるは、洒落たレース柄カバーのスマホ。 「……あなたは幻を見ている三分の間、無抵抗のまま、ヨクボーンに握り潰されていた……」  なんたる不覚、そして屈辱。俺は焦燥のあまり、体感時間のズレにすら気付かなかったというのか。 「……だりぃから、あとはゲームして待つ。ヨクボーンそいつ頼んだ、魔法少女もろとも抹殺……」 『ボーンッ!』  地鳴りを轟かせ、怪物がにじり寄ってくる。  次の一撃がトドメだろう、無念だ。 「……あ、限定ガチャやってる……」  シャドーネビュラにまでアプリゲーム中毒患者がいたとはな、世も末だ。 「……あ、また日吉号でた……」  そいつは確か闘犬なんとかの。  そあらくん……聞いてるか? どうせ死ぬならガチャとやら、一回くらい引かせてやればよかったなぁ。 「……でも、七枚以上ダブってるから、もういらない。素材に使う。ポチッ、と……」 「な  ん  だ  と」  ん?  いったい誰だ? 地獄の底のマグマ溜まりが煮え立つような、この声の主は。  やけに近くから聞こえた気が…… 「って、そあらくん?」  そう、紛れなき彼女であった。  理由は知らんが催眠魔法の呪縛をみごと吹き飛ばし、正気に戻ったのだ。いや、果たして正気と呼べるのか。幽鬼のごとく立ち上がり、どす赤いオーラとして可視化するほど、禍々しい殺気を燃えたぎらせているのだが。 「プラネットぉラブエナジぃチャージングぅ」  あっ、変身した。  そあらくんの周囲に円形の宇宙空間が生じて、全裸となった体に無数の流星がまとわりつく。頭に乗っかった☆は黄金のティアラに、右手に握られた☆はステッキと化す。螺旋状に舞う☆の一方は桃色のリボンとなって、銀髪をツインテールに結う。一方はツバサ折り畳む鳥の姿を連想させる、青地にフリルあしらうドレスを形成。 「嫉妬の炎はプロミネーンスッ!  逆上のウィッチ・ぷらねたん!  おんしのハラワタ、東京湾に散りばめちゃるぜよ!」
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