299人が本棚に入れています
本棚に追加
名乗り口上はいつもと違って可愛くないし、本来なら決めポーズのあとカメラ目線でウインクしてハート型のエフェクトが漂うはずだが、それもない。明らかに目が据わっており、任侠映画っぽいBGMまで流れている。
「私なんか二万溶かしても出なかったのよ。捨てるなら頂戴ってか、その運わけて? ねェねェ」
「……ひっ、ヨクボーン、攻撃……」
睨まれたネダリーは細っこい肩をびくりと震わせる。
命令に応え、巨人が動く。
恐れを知らぬ木偶、憐れなるかな。
ぷらねたんがメインウエポンの『スバルステッキ』を振りかざすと、その柄は二段階まで伸長し、翼にも似た先端部分の装飾が展開して、鋭利な槍の穂が飛び出す。
「プラネテス・プレッシャー!」
強い光の明滅と共に、槍の切っ先から放たれた球状のエネルギーフィールドが巨人を包み込む。そいつの体は抵抗不能な凄まじい重力によって地面に押しつけられ、みるみるうちにヒビ割れてゆき、無惨にもひしゃげる。
「悪の心よ、星クズにな~れ☆」
元気いっぱいの決め台詞が響く頃、ブタさん貯金箱の巨人は既に塵芥と化して風に飛ばされていた。
「死因が圧死、圧死て……倒し方が俺の百倍えげつないんですけど! 幼女が泣くぞ魔法少女!」
「殺り方は人それぞれじゃんよ」
「しかもキミんとこの界隈じゃ刀剣類とかNGだろ! 幼女が遊んで怪我でもしたら親御さんからクレームが」
「大丈夫よ製品版では尖ったとこ全部ぷにぷにだから」
言い合う俺達の後ろで、正気に戻った区民の皆々様が「あれ? 僕は私はいったい何を」なんてお約束台詞を口々に呟きながら解散してゆく。ネダリーの姿は、影も形もない。幹部キャラって本当に一瞬で退散するよな。
「あのさ」
どうした、ぷらねたん。もじもじして、うつむいたりしてキミらしくもない。
「ごめんね。迷惑、かけて」
何を今さら。
俺達はあれだ、これからもしばらく一緒なんだから。
お互い様ってもんだ。
事があるたびイチイチ気にしちゃ、やってられんぞ。
「あぅっ」
彼女の髪をくしゃくしゃに撫でてやったら、白い頬が瞬く間に火照っていく。
しかしコイツ、どうやって今まで課金を、などと考えながらトライサンダーに股がる。
すると、レバーにぶらさがる妙なタグを発見。
以下のように印字されていた。
『バイク買取り専門店・藤兵衛』
ぷらねたんテメェこの野郎!
つづく
最初のコメントを投稿しよう!