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誰かが言った。
宇宙には空気も重力もない暗闇を自在に泳ぐ魚がいると。
宇宙には星々を転々とする遊牧民族がいると。
宇宙には惑星をも破壊する力を持った部族がいると。
そして、この宇宙には母星を捨て銀河の海を航海する海賊がいると。
もし君が天を仰ぐだけでは足りず、宇宙を旅したいと思うのなら海賊を頼るといい。
彼らもまた君と同じ、果てのない銀河に夢を馳せた荒くれ者達なのだから。
「ようカズ、よく来てくれたな」
宇宙船で一番豪華な船長室。部屋はきらびやかな装飾品であふれ帰り、壁にかけている絵画から、船長が使うペンまで全てが高価そうなもので統一されている。
その中心で偉そうにふんぞり返って、椅子に腰を下ろしているのが『キング海賊団』の船長――キング・スウィシャーである。出身は緑の惑星ギガリオス。
シルエットは人型ではあるが。言葉を発するたびに見える牙、首を覆うようにして生えているたてがみ。地球で言う所のライオンを髣髴させる姿だ。人とライオンが交配すればこの男のようになろう。
「どうしたのボス、急に呼び出して」
そう答えたのは船長の対面に立つ青年。
名前は――ハネダ・カズ。出身は地球。
瞳と髪の色は黒色。年は地球換算で十六歳になる青年だ。中肉中背で海賊というにはあまりにもあどけない顔をしている。
「いやな、どこの海賊のシマにも属さない惑星で『星の石』を採掘、加工を勝手にしてる奴らがいるんだよ。まぁ俺らのシマじゃねぇけど俺らのシマのすぐそばで好きにさせるわけにはいかねぇから面子もあるし幹部に行かせようとおもったんだけどな……」
「なるほど! それでキング海賊団最強の俺に声をかけたんだね! まかしといてよボス! じゃあ行ってきまーす」
「いやちょっと待って! カズ! 騒ぎは起こすなよって、もういねぇ!」
深々とひとつため息を付いたキングは電話を取り出す。
「ああ、俺だ。カズに視察を頼んだんだけど……心配だからさ、まぁなんだ。ちょっと付いていってあげてくれない?」
不安そうに言葉を選びながら頼んだのだが、電話越しの相手は怒鳴って拒否しようとする。
「そう言うなって、カズとの付き合いも長いんだしね? じゃあ頼むよ」
強引に電話を切りキングはぐったりとした顔で椅子に深く腰掛ける。
「はぁ、心配だなぁ」
それはとても一船の船長とは思えない狼狽具合であった。
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