答えは夕暮れのカフェで

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「今日は特別な日なの」  いつも通りの、混雑した大学の学食で――偶然なのか、それとも、わざわざそれを言うために来たのかは、わからなかったが――昼食真っ最中の僕の向かい側に座ると、彼女は挨拶もそこそこに、明るい調子でそう言った。  何で? と訊いたが、彼女はにやにやと笑うだけで、答えを言わずに焦らす。そうやって他人の反応を面白がるあたりが、いかにも彼女らしい。  彼女がそんな態度なので、それに対抗して――興味を失ったように彼女から目を離し、昼食のビーフカレーを口に運んだ。そうした方が、より早く答えを得ることができるだろうと予想して。  実際、それは効果を示した。興味ありませんとばかりに、無言でカレーを食べ続ける僕の向かいで――彼女は何も置かれていないテーブルに両手をついて、身を乗り出すと、 「気になるでしょ?」  にやにや笑いの消えた、やや不機嫌そうな表情で……そう問うた。  全然、と、答えてやろうかとも思ったのだが、代わりに、それより昼飯はどうした? と訊いてみた。ある意味で煽りを含んだ、無関係な質問は――彼女に対して、十分過ぎる効力を示し。その不機嫌な表情がより歪み……不機嫌というよりは、怒りの色を見せ始める。  しかし、そこまでだった。彼女は、ふんと鼻を鳴らして椅子をテーブルの下に戻すと、再びどこか得意気な笑みを浮かべ、 「答えが知りたかったら、今日の夕方、図書館棟の三階に来ること」  それだけ言って、学食を後にしてしまった。  ここで教えてけ、という僕の言葉は、彼女の耳に届いたかどうかわからない。
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