誘拐犯の部屋で

6/9
前へ
/9ページ
次へ
「死にたいわけ?」 急に話しかけられて、びっくりした。 「ずっと無視していたくせに、何なの」 私はむっとして、男の子に言い返した。 「あんたみたいな、苦労せずぬくぬくと育ったお嬢様って、大嫌いなんだよね。暖かい部屋でごはんがもらえるだけで恵まれているのに。わかってない」 男の子はうんざりしたように続けた。 「あんたが死んだらあの人のせいになるんだから、ちゃんと食べてよ」 「あの女の味方なの?」 「そうだよ」 「誘拐犯なのに?」 「僕にとっては、恩人だよ。虐待されていた僕をあの人は保護してくれたんだ」 「保護じゃなくて、誘拐でしょ」 「どっちでもいい」 男の子はそっぽを向いて言った。 「結果的に、僕は救われたから」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加