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「はぁん? まぁ、どうせ一緒にいりゃ火ぃ点けんのはお前だかんな。くれてやるよ」
自分であっさりと忘れていったくせに、失くすなよと、そう言う辰巳にフレデリックは笑いを零す。
やがて車が横付けされたのは、『Queen of the Seas』が横浜に寄港した際によく二人で来る店だった。新宿にあるその店は、辰巳の知人が店主をしている飲み屋だが、酒の種類も豊富で、出される創作料理がフレデリックは気に入っている。全室が個室で人目を気にしなくていいのも楽だった。
お気に入りの熱燗を手酌で注ぎ、フレデリックがおぼろ豆腐をつついていれば、呆れたような辰巳の声が耳へと流れ込んだ。
「お前、他に行きてぇ店とか食いてぇもんねぇのか?」
「ここは静かで雰囲気もいいし、僕はとても気に入ってるよ。お酒も料理も美味しいしね」
ふわりと口の中でとろける豆腐に頬が緩む。次いでフレデリックは肉厚のホッケへと箸を伸ばした。
「こんなにシンプルで美味しい料理は、あまり食べた事がない」
「ただの干物だろ。つぅかお前、普段なに食ってんだよ?」
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