マフィアは孤独に恋を謀る。

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「フランスにいる時はフランス料理だよ。船には各国の料理があるし、もちろん日本食もあるけれど、ここで食べるほどは美味しくないかな。それに、料理は何を食べるかも大事だけれど、誰と食べるかでだいぶ違うからね。キミと食事をするのは、とても楽しいよ」 「それじゃあ結局なんだっていいって言ってるようなもんじゃねぇかよ」 「分かってないなぁ。どうせ食べるなら、もちろん美味しい方を選ぶに決まってるじゃないか。僕が言っているのは、そのうえでの話だよ」  辰巳と食べる食事が、フレデリックにとって満ち足りるに値するものであることは事実だった。他愛もない話が、何故か楽しい。感情を隠そうとせず、ころころと変わる辰巳の表情が、フレデリックには可笑しくて仕方がないのだ。何よりも、変わり者だ我儘だと顔を顰めておきながらも辰巳がフレデリックを見る目はとても優しい。  フレデリックには持ちえないものを、辰巳一意という男は数多く持っている。 「辰巳は? 食べ物にこだわりはないのかい?」 「別にねぇな。まぁ、旨けりゃ何でも構わねぇよ」  旨ければ何でもという方が我儘だと思いはするフレデリックだが、辰巳の場合は料理よりも酒の方に重きを置いている節がある。それも、味はさることながら、種類において。     
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