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いつの間にか、すぐ目の前まで寄せられた黒い瞳が愉し気な色を浮かべてフレデリックを覗き込んでいた。息苦しささえ感じるほどの深い闇色に、思わず言葉が出なくなる。
―――たまに見せるこの目がいけない…。
惹き込まれたように視線を逸らせずにいるフレデリックの額に、こつりと辰巳の額がぶつかった。
「ばぁか。ガラにもなく真面目な顔すんじゃねぇよ。冗談だろぅが」
「キミは…意地が悪い…」
「お前ほどじゃねぇだろ」
すぐさまもと居た場所に戻り、グラスを傾ける辰巳にフレデリックは安堵した。同時にこれまで胸に痞えていた気持ちの正体に思い至る。
すべてを見透かすような目をしておきながら、何も言ってはこない辰巳に対する不満と反感。フレデリックは自ら素性を隠しておきながら、だが辰巳に何かを隠されるのは嫌なのだ。辰巳が言ったように、嫉妬といえば確かにそうなのかもしれない。我ながら子供じみた感情だという思いはフレデリックにもある。けれどもそれが、フレデリックの本心だった。
「ところでフレッド、お前いつまで日本にいるつもりだ?」
「うん? とくに決めてはいないけど、休暇があと十日だからそれまでには帰るつもりだよ」
「はぁん?」
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