マフィアは孤独に恋を謀る。

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 らしくない気分に駆られ、起きる気配もない辰巳の胸へと再び頭を預けたフレデリックが次に目を覚ましたのは一時間後の事だった。何やら家の中が騒がしい。フレデリックが躰を起こすのと同時に、廊下から僅かに遠い声が辰巳を呼んだ。 「あ…?」  まだ寝足りないのか、不機嫌そうに頭を掻きながら躰を起こす辰巳にフレデリックは苦笑を漏らした。それでも、寝起きが悪いくせに家の者の声には即座に反応するのだと思えば感心ではある。 「おはよう、辰巳」 「ああ」  短く返事を返しながら、辰巳はフレデリックをぐいと引き寄せる。口付け、気の向くまま口腔を蹂躙した後で煙草へと手を伸ばす。煙草を抜き出して咥える辰巳にフレデリックは火を差し出した。  微かな紙の焼ける匂いとともに、咥え煙草のまま辰巳が廊下へと声を張る。手短に用件を告げる若い衆に再び短い返事を返して、辰巳は長く紫煙を吐き出した。 「あー…面倒くせぇ」  布団の上に胡坐をかいてガシガシと頭を掻く辰巳の顔は渋い。何もなければないで飽きてしまう性格をしているくせに、何かがあると辰巳はすぐ『面倒くさい』と口にする。それはもう、とにかく何にでも文句を言わなければ気が済まないのではないかというほどに。  ともあれ事務所へとすぐに顔を出せという言伝(ことづて)は、辰巳の父親である辰巳組の組長、匡成(まさなり)からもたらされたものだった。 「僕は匡成に会えるのも楽しみだけどな」 「はぁん?」     
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