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「だって、こちらから出向かないと匡成は帰ってこないだろう?」
「まぁな」
自室を後にし、廊下に控えた若い衆に『飯』と、それだけを告げて風呂場へと向かう辰巳のあとをフレデリックは大人しくついて行った。
建物のみならず、辰巳の家はそのすべてが日本様式の作りになっているためにどこもかしこもフレデリックには低く感じる。部屋に出入りするたびに、低い鴨居に頭を下げなければならないのが些か面倒な家だ。だがしかし、そんな中にあってこの浴室は、フレデリックが気に入っている場所でもあった。檜造りの広い浴槽は、長身のフレデリックが足を伸ばしてもまだ有り余る。
「はぁ…とても気持ちが良いね」
「このまま布団に戻れりゃあ最高だがな」
「ふふっ、そんなことをしたら匡成が乗り込んでくるよ」
笑いながら隣を見れば、浴槽の縁へと両腕を掛けた辰巳の姿が目に入る。寛ぎきったそのさまに、思わずフレデリックは手を伸ばしていた。
「そんなに無防備でいると、襲いたくなるね」
「あぁ? 朝っぱらからサカってんじゃねぇよタコ」
「駄目?」
機嫌を窺うような言葉を口にしておきながらも、フレデリックの長い指先は辰巳の胸元を擽る。明らかに情欲を纏ったその動きに、辰巳の喉が低く鳴った。
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